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ラシャイシ/出会い ラシャ視点

「主様。お食事の準備が整いました」


噴水が見えるよく植物達の管理が行き届いた庭園。チラーミィやタブンネ達がはしゃぎながら庭を駆け回る姿を部屋の大きな窓ガラス越しに見て楽しんでいた主様へ声を掛ければ、主様はやや掠れた声で返答し年の功を感じさせる笑顔をこちらに向ける。

今日の昼食は何か聞かれた為前菜からメニューを口ずさめば、お前の料理で今日も最高の一日になるだろうとまた笑う。


そんな主様を私は目を細めながら聞き入れ、車椅子を引く。日差しがカーテン越しに差し込み、暖かな気温がゴーストでありがらも心地よいと感じる。温度とはこんなにも安堵出来るものだとは、主様と出会わなければ感じる事も出来なかっただろう。


主様は、誰かにエネルギーを与えられるお方だった。

それは例え相手がゴーストであろうと。










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古時計の音がする。

一人で管理するには広過ぎる古びた屋敷の中のとある部屋のベッドの上で遠くの音をぼんやりと聞く。1分ほど天井を眺めた後シーツの音を鳴らし上半身を起こせば、さらりとツートンカラーの髪が肩へと流れる。僅かに乱れた髪や衣服はそのままでベッドのすみに置いたスリッパへと足を差し出し立ち上がる。静かな空間ではあるものの床には目立った埃は見受けられない。

こうして午後17時に起床した長身の男は寝ぼけた様子もなく容姿を整える準備へと取り掛かり始める。


此処はかつてライモンシティ中でポケモンバトルが強い事で有名だった主様の住宅。また、自然に囲まれた自作のスタジアムがあった為イッシュ地方の各地から利用者が集まっていた場所でもある。今では誰も利用者はいないものの庭園に管理してあり、屋敷からバトルの様子を見れる点がこの場所の魅力の一つだった。


そんな観光客も集結し賑わっていたこの場所も今となっては誰も利用者はおらず、彼以外にポケモン一匹も存在しない。

支度を終えた男性はスラッとした身のこなしで執事服を着こなす。時刻は18時手前。ゴーストタイプの彼にとっての1日の始まりである。


家事を淡々とこなし、間休憩をはさみつつ庭の手入れをすれば時間はあっという間に過ぎていく。すっかり外が暗くなりロビーの拭き掃除をしながら深夜の食事のメニューを考えていると屋敷の外からガタンゴトンと列車の音が聞こえ、彼は僅かに鋭い目付きへと変わる。

風景と一体化しそうな手袋をはめ直しネクタイをひき締めカツカツとヒールの音を鳴らしながら階段を降り玄関先へと向かう。


此処が世間からの声が上がらなくなってからもう随分と時が経ち、主人もとうの昔に安らかな顔で虹の橋を渡って行った。主人は執事へ自由になれと遺言を残したが、元より縛られていたとは全く思っていなければ彼以外に遣える気も無い。

行こうと思えば共に虹を渡る事も出来ただろう。だがその行為は主人を悲しませる。執事はその時が来るまでこの館を忠実に管理していく事を決めたのだ。


時刻は深夜の2時過ぎ。

駅も全く無いのに時々聞こえる電車の発進する音。主人がいなくなった後、世間では新たな時代が始まった頃から妙な噂が流れているようだった。



『ライモンシティの地下鉄には幽霊車が存在する』と。



中々見ごたえがある為まれに執事自身も見学に向かうのだが、ライモンシティの地下鉄ではバトルサブウェイと呼ばれるポケモン勝負のシステムが開催されており、その勝負に敗北したトレーナーの前に通常の地下鉄線と混合して入ってくる…とか、深夜の列車に乗るとそれは存在しない電車である…など様々な形で噂が流出されている様子。


そして何故かその幽霊車は必ずこの主人の屋敷の前で終点を迎え停車する。何度か幽霊スポットとして面白半分で幽霊車に乗り屋敷に乗り込んでくる輩がいる為、執事はまた面倒な者が訪れたのだろうと溜め息をつく。


(深夜帯に幽霊車が停車する理由はおおよそ予測が立っていますが…私はまだそちらに向かう予定は御座いませんよ)


そう考えていると幽霊車から降りてこの屋敷に気付いたのだろう、カチャリと控えめな音を立てて一人が扉を開き入ってきた。

失礼なお客にはお帰りいただこう。


「失礼。此処にどのようなご用件で?」


声を掛けると相手はビクッと肩を揺らしこちらへ目を向けてくる。幸い屋敷は執事が通行の際は明かりが灯される為、ロビーは歩くのに支障がないほど明るい。


(子ども…?)


そこに立っていたのは低身長の小柄な少年の姿。こちらに驚く様子と姿勢からあまり悪戯するような性格には見えなかった。

何より…



「……おや………。貴方様もシャンデラですか」





少年は執事と同じくシャンデラの身だった。

これらが二人の出会いである。

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