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ホムイド/救助隊としてキミを守ること

Game Set!の合図と共に鳴り響くホイッスルの音。ドーム上のスタジアムを囲うようにして並ぶ席で観客達が歓声を上げる。


「く〜〜〜!燃える勝負だったな〜!」


そんな中席から立ち目を輝かせ試合後退場していく選手達を見送る活発なリザードンのライドがいた。ライドは友人である同じくリザードンのホムラがこのユナイトバトルに出場している為全力で応援していたのである。勝敗はホムラがいるチームの勝利だったのもあって余計に嬉しそうにその場をピョンピョンと跳ねる。


「ライド、興奮するのは分かるが席に座れ。後ろの席の人の邪魔になる」


すると隣の席で同じく見守っていたバンギラスのジャンクがまるで弟を叱るような態度でライドへ指摘する。言われたライドはハッとしてぴゃっと即座に着席。なんとも微笑ましい光景に逆側の隣に座っていたフーディンのメンは笑みをこぼした。

ライドを挟んで座ったままジャンクとメンは話を続ける。


「ホムラの動きも救急隊やってた時よりも機敏だよな」

「そうだな。ユナイトのルールに沿っているのもあるだろうが、私達の世界とは随分と違うように思える」

「まあ…確かにあんなに生き生きとしてる様子を見たのは初めてだったよ」


(試合に戻れて良かったな、ホムラ)


二人の話を半分くらいの意識で聞きながらライドはずっと試合復帰する事を望んでいた友人の夢が叶った事に喜びを感じていた。そんなお気楽な彼をよそに話の内容は真剣なものになっていく。


彼らはチーム名FLBのゴールドランクの救助隊であり、一時期彷徨っていたホムラを保護し此処エオス島帰還までの間救助依頼や探検捜索を共にした仲だ。こうして彼の言うユナイトバトルを観客席で見る事ができたのもホムラから試合チケットを貰ったからである。


「けど、試合を見る限りそんなに酷い環境とは思えないんだよな…その辺どう思います?メンさん」

「ふむ…ジャンクが言いたい事は分かる。…だが…」

「とりあえずホムラの仲間達に片っ端から聞いたら良いんじゃないか?オレホムラんところ行ってくる!」

「あっおい!一人で行動するな…!」


ジャンクの制止の声は届かずライドは客席から再び立ち上がり選手が退場した場所へと向かう。

ジャンクやメンが心配していたのはこの場所の治安である。ホムラや過去と未来を一部見る能力を持つネイティオのティアラからの内容を聞いたところ、主にポケモンを扱うトレーナーや運営する人間達が酷いとの事だった。

現に真面目なホムラが仲間の約束を破ってまでライド達のいるポケモンのみが行き来する世界まで逃げて来た程だ。観客の盛り上がりから見て表向きは然程違和感を感じなかったが、ジャンクとメンはその点を余計に怪しんだようだった。


ライドもその内容を聞いたからこそ試合チケットを受け取りホムラと共に訪れた。それはそうと彼の復帰や勝利を真っ先に祝いたかったのも事実である。


「ホムラ、今頃仲間と話してるかな?」


一応野生扱いではあるものの選手ではない為見つかると追い出されると思ったライドはキョロキョロと様子を伺いながら入口付近へと走る。

すると奥から聞き覚えのある声と人影が見えてライドはパッと表情が明るくなる。


「おっいた!おーいホムラ…」




「今、なんて言ったんだ」



その声は普段から聞く落ち着いたものではなく、信じられないような震える声。ライドは頭上に上げ振っていた手を降ろし思わず掛けていた言葉を失う。何やら向かい合わせの人間と揉めているようだった。雰囲気的にホムラのブリーダー的存在といったところか。


…いや、揉めるどころか人間の一方的な罵声だ。

内容は今更戻ってきた事への軽蔑とホムラが逃亡している間に別のリザードンを雇っている為用済みである事で、居場所を失った彼へさらに畳み掛け罵る様はライドにとって信じられない光景だった。


ホムラは最初こそは言い合っていたがやがてあの試合後の生き生きとした表情は失い、瞳の奥の光が無い様子でただただ相手の言い分を黙って聞いている状態だった。

…この有り様にライドが黙っているはずもなく。



「─────何なんだよオマエ…!」

「!ら、ライド…?っよせ!」

「ホムラに謝れよ!!」


ライドはブリーダーに掴みかかり怒鳴るがホムラに止められ引き剥がされる。フーフーと威嚇し怒鳴ったことによる息切れを無視し睨みつけるライドへブリーダーは余裕の表情で口を開く。


「よくそんな酷い事言えるな、……っ?え?」

「…………!」


ブリーダーに言われた発言の意味を理解するのに遅れたライドの代わりにホムラが漆黒の翼を逆立て真っ青になりながら庇うようにしてライドの前に立つ。


「こいつは知人の手持ちみたいな存在だ、家族も仲間もいる、野生じゃない…!」


ブリーダーから話されたのは野生のリザードンが珍しい事。それを何を意味するのか理解するまで掛かったのだ。幸いブリーダーは今ボールは所持していなかったらしく僅かに惜しむような顔でその場を去ろうと二人に背を向けた。


ブリーダーが立ち去ると真っ先にライドはホムラへ詰め寄る。


「ホムラっ、何で言い返さなかったんだよ…!?あんな奴いつものホムラなら突っ返してただろ!」

「…言ってどうにかなる連中じゃないんだ。それに…奴は俺の他に仲間も担当してるブリーダーだ。迂闊な事は出来ない」

「それってひきょーじゃん!…オレっ、ずる賢い人間がいる事は知ってたけど…でも…それでもここまでの事はしてなかった。反省もしてたみたいだし…それに、プクみたいなめっちゃ優しい人間もいるんだって知ってる。……けど………けど…!」

「…………、」


うまくないなりに懸命に言葉にしようとするライドの様子にホムラは黙って聞いている。その僅かに苦しげな表情が初めて出会った頃の彼を連想させ余計にライドは悲しくなった。


(今悲しいのは…オレじゃなくてホムラだよな)


「……ライド?」


ホムラの心配する声を聞きながらライドは大きく息を吸い込み廊下に向けて大声で言い放つ。


「ホムラは強いんだからな!少なくとも達観して酷い事してるオマエらよりずっと…!!がおーー!!」

「お、おい!こんなところで大声出すな…!」


ぎょっとしたホムラが慌ててライドの口を両手で塞ぎもが、となる。


「ぷはっ……スッキリした!」

「そうかよ………」


頭を抱えるホムラだが先程の悲しげな表情は消えていた。


「なあ、ホムラ。仲間達には謝ってきたのか?こう…約束がどうのって」

「う……ま、まだ…。帰還してすぐに試合だったし…」

「そっかあ。仲間達は今何処にいるんだ?」

「今は…試合が終わったばかりだからまだ待機室にいると思う」

「じゃあ一緒に行って謝って来ようぜ!オレホムラの友達にも会いたいしさ」

「っうわ、!?急に引っ張るな…!」


ライドはホムラの手を引きながら廊下を走る。


「喧嘩したら仲直りってな!…って、別に喧嘩してた訳じゃないか。はは!」

「……ったく……お気楽な奴…」

「ところで方角こっちで合ってるのか??」


ホムラの手はライドと然程変わらない。だがライドは救助活動で、ホムラは試合で鍛え上げた手であり、それぞれ傷の付き方も骨の強張りも違う。


ホムラの手を引きながらライドは考える。



笑って。

笑ってよ。

勝負した時のようにさ。吹っ切れて汗流して風に当たって空を見上げて。


試合を見ていれば分かる。ホムラは本当はユナイトバトル、好きなんだな。


勝っても負けても笑って全力で勝負するホムラが好きだ。

その笑顔が消えないように今のオレが出来る事。


それは、



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