禍ラン はじめての食事
- reisetu
- 1月9日
- 読了時間: 7分
「本気で言ってますの?」
地獄森と呼ばれる自然と廃墟に囲まれた魔界の立ち入り禁止区域の中で殺意に満ちた赤と青のオッドアイを死神に向けるのは、鬼と恐れられる少女ランだ。その問いにこのReisetu世界で死神と呼ばれる説実は涼しい顔を崩すことなく大鎌を持ったままにこやかに話を続ける。
「このあたしに人間のおもりを頼もうだなんて良い度胸してるわね。鬼族は人間が大嫌いなのはご存じのはずでしょう?」
「せやな。けどリュウキを襲った事でお嬢さんの弟が巻き込まれた。その事実は変わらへんで」
「元はと言えば立ち入り禁止区域のこの森にノコノコと現れたこいつが元凶よ。大体何が目的だったのよ、自殺でもするつもりだったのかしら?」
「自殺は出来へんよお、リュウキは不死身なんやから。お嬢さんも身を持って知ったやろ?」
「いけしゃあしゃあと…」
ビシリと今回ラン達に襲われたリュウキと名乗る不死身へ指を差し抗議する。指を差されたリュウキは申し訳なさそうな寂しげな表情をするのみで口出しをするつもりはないようだった。その態度にランは余計に苛立ちを見せる。
弟ソンも含めラン達鬼族は生命の血液を食料とする。ある日地獄森に迷い込んだ人間達をいつものように襲いかかったところ襲われたリュウキは研究員であり、所持していた鞄の中の魔術道具の破壊、薬品達の混合により時空に小さな亀裂が走りワームホールが発生した。
そのワームホールにソンが巻き込まれ消えてしまったのだ。
愛する弟がどこかも知らない異空間へと飛ばされ激怒したランはリュウキに手をかけるが彼は不死身…ゾンビである為何度殺しても死なず。そこで彼は普通の人間ではない事を理解していた。
「…ねえ、とりあえず死神の言う事聞いたら?」
今まで黙って聞いていたもう一人の男性、禍津がランへと声を掛ける。
彼は異世界から同じく迷い込んできた禍津神だ。少し前まで激怒する彼女の感情を抑えようとフォローを入れた人物でもある。彼が力技でランの騒動を抑えている間魔界が揺れ動かされる程の攻防戦になった為、こうして死神の説実が到着し様子を見に来ていたのだった。
説実が事情を聞いた上で指示を出したのはこうだ。
神様である説実からはソンの無事を確認次第連れ帰る事、よその神様である禍津を連れてきてしまった事へのお詫びとしてワームホールの作成をリュウキヘ許可を出す。
そしてワームホールを完成させるためには材料や魔術用具を集める必要がある為、禍津とラン、リュウキの三人で協力し収集しろという話の内容だった。
もちろんランは普段は地獄森から出る事は許されていない為、特別枠として殺める事の制限を掛けられた状態で一時的に外に出る事を許可された。しかも神である禍津も共に監視役のように同行する事になるのでランにとっては不都合な話だらけには違いなかった。
「あなたまで死神の話を信じるのかしら?」
「信用はしてないけど他の方法は提示してくれないんでしょ?僕もこう見えて今は神の立場ではあるから、彼女が全てを提供出来ない理由も何となく分かるし」
「…………帰れなくなっても知らなくてよ」
少しの間考える素振りを見せた後、やがて諦めたかのように深くため息をつきそのままふい、とそっぽを向いてしまう。
彼女との付き合いはまだ数週間程度だがこの返答は渋々承諾したのだろうと判断した禍津は説実達へ肩をすくめてみせる。
「ほんなら、決まりやね」
まるで最初から見透かしたような対応を取りにっこりと笑う説実はリュウキへ地域の指定や他の注意事項についてについて説明を始めた。
「ひっく、うえええ……!」
「うるさいわね………あなた男の子でしょう?ピーピー泣くんじゃないわよ」
「子どもってそんなもんじゃないの?それにしてもちっとも君から離れようとしないね」
「わああん!あーーーーーん!!」
「殺していいかしら」
「お肉は柔らかそうだよね」
「だっ駄目です!!!」
説実からの指示により地獄森を出てから一週間。とある街に到着し情報収集をしていたところ、ランよりも遥かに年の離れた小さな少年が泣きながら彼女の足元について来た。その隣で禍津が何故か感心した様子で眺めている。
どうやら少年は折り紙で作った紙飛行機が木の枝に引っかかり取れなくなったらしく、周りの人間達もどうする事も出来ないままでいた。
(道具や材料は時間さえ掛けて良いのなら僕だけでも行けると思うけど…説実さまは何故二人も同行するよう話したんだろう…。二人も苛立ってるみたいだしこのままじゃ協力どころじゃ…)
少年が泣けば泣くほど不機嫌になっていくランの様子にオロオロするリュウキは既に日々胃が痛い思いをしていた。
いつランが手を出し傷付けるかが読めない為リュウキが代わりに少年を宥めようとしたその時である。
とん、
「…ほら、これで良いでしょう?ありがたく受け取りなさいな」
「!!わあ………!」
なんとランが軽々と木に登り紙飛行機を取ると地面へと降り少年へ手渡したのだ。弟がいるからだろうか。彼女の意外な行動にリュウキは目を丸くする。
少年は受け取るやいなやパ、と表情が明るくなり喜び、親元へ向かう。
「あの高さを平気で登れるなんて凄いな…!紙飛行機取ってくれてありがとよ、嬢ちゃん。ほら、トキも」
「ありがとうおねーちゃん!」
「そうだわ、貴方達私達の家に寄っていきませんか?宿泊場所を探しているのなら今晩は泊まっていくと良いわ」
「そりゃあ良い!嫁の料理は美味いぞ〜!」
「ええっ?そ、そんな恐れ多いですよ…!」
まさかの提案にリュウキがまた慌てる。謙虚な様子に母親がにこりと微笑み自分たちが住む場所へと案内しようと手招きをし始める。
「息子を笑顔にしてくださったのですもの、遠慮なさらず。こっちよ」
どうしようか迷った顔で二人を見ると禍津は然程気にした様子はなく、ランは不機嫌そうではあるものの野宿にならないだけマシだと思うのか口出しはしなかった。
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「今日のごはんはなあに?」
「トキの大好きな肉じゃがよ」
「わーーい!肉じゃがだ!」
食卓を囲みいつもよりも賑やかな人数で出来立ての料理を口にする家族。手を合わせて"いただきます"、をする時もランや禍津は不思議そうな表情をしていた事によりリュウキは二人は家族でご飯を食べる環境では無かった事、そういった感覚さえも無かった事が分かりほんの僅かに心が揺れ動く。
美味しそうにはふはふとしながら食べる少年を眺めながら禍津もやがて箸に手を伸ばし見様見真似ですくい上げ肉じゃがの隣に置かれた味噌汁を飲む。
ランは普段人間の血肉以外の食べ物を口にしたことが無い為お腹空いてないと最初は誤魔化し断りを入れたものの遠慮せずに!と家族におされ仕方無しに一口サイズにジャガイモをくずし含み入れる。
あたたまれた温度。
じんわりと口に広がる天然素材のお芋の味。
あれだけ人間が口にするものを拒絶し食べようとしなかった彼女が空腹もあってかはじめて口に入れた。
「どうですか?お口に合うと良いのですが…」
「…はじめての味だね。悪くない」
「おねーちゃんとおにーちゃん肉じゃがはじめてなの?美味しいよ〜!」
黙々と食べる禍津の隣でランからのコメントは無かった。だが一口といわずゆっくりと、何かを考えながら食べ進める彼女の姿を忘れる事はないだろうと、リュウキは思う日だった。
(死神さまが二人を同行させたのってもしかして…)
「あら。レディーの顔をジロジロ見つめるなんてお行儀が悪いわよ」
「僕の事も見てなかった?」
「わ、ご、ごめんなさい。……でも、うん。みんなで食べるご飯、美味しいですね」
彼女達は今後知っていくのだろうか。
魔界にいる者達の事を。人々の優しさに触れながら、ゆっくり、ゆっくりと。
そうして知った時、何を感じるのだろう。何を思うのだろう。
そんな二人を見守りたいと、リュウキ自身も少しずつ変化していた。
