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紅茶

  • 7月12日
  • 読了時間: 3分

レグは、このカフェで働くごく普通の青年である。


レグの仕事はウェイターだが、何もキッチンに入れないという訳では無い。ただ、紅茶と茶菓子には詳しいものの気難しいマスターに接客なんて出来るはずもなく…愛想のよく、可愛らしい外見をしたレグの方が適任だと判断されたまでだ。


レグは可愛いものと美味しいものが大好きなので、例えばこの…明らかに男物では無さそうなフリフリのワンピースを着用して、笑顔を振りまきながらスコーンと紅茶を運ぶ仕事も別に苦では無かった。何ならスコーンを1つほどつまみ食いしても怒られないし、休憩時間には好きなフレーバーの紅茶を選んで淹れることが出来る。お客さんとお喋りしてるだけで褒められるし、お金も貰える。最高に良い職場だ。



そんなレグには最近、虫のお友達が出来た。

そう、虫のお友達。彼はレグのことを女の子だと思っており、ネタバラシをしたのだが、次に来た時はまた女の子だと思っているのでネタバラシをしなければならない。

ネタバラシをすると、彼はとても悔しがるのだが…その後すぐに、まぁいいやと気を取り直して、可愛いだとか紅茶が美味しいだとか褒めてくれるのだ。つまり、とてもいい人だ。


「虫さんはなんの紅茶が好きでしょうか?うーん、はちみつがいっぱい入ってるのとか?」


でも、スコーンも甘いから、紅茶にお砂糖を入れるのは甘ったるすぎるかもしれないな。


そんなことを考えながら、ガラス製の小瓶を見比べてフレーバーを選ぶ。アールグレイ、ダージリン、ストロベリーにシトラス…チョコレートやシャンパンのフレーバーまで、様々な茶葉が並ぶ。紅茶のフレーバーはフルーツだけでは無い。スイーツやお酒の香りの漂うフレーバーまで、実は幅広く存在しているのだが、案外知られていないものだ。


「あっ!わかりました!スコーンにはちみつをかけましょう!」


こっちもやっぱりお砂糖は少なめ。甘さは控えめにして、オレンジピールの苦味を加えれば、はちみつの甘みが絡みつくことは無いはずだ。水分の少ないスコーンととろみのあるはちみつを、暖かい穏やかな香りの紅茶で流す。とても良い組み合わせだと思いませんか?ああでもやっぱり、はちみつだけだと良くないな。ここはクリームチーズとマーマレードジャムもつけましょう。味変ってやつですよ!


紅茶は…フルーツのフレーバーはオレンジピールと被るのでやめた方がいいかもしれない。ああでも、スイーツのフレーバーもスコーンと似通ってしまうかな。それならここはいっその事、無難なチョイスにしておきましょう。



──────レグはこんなふうに、大切な誰かの為にティーセットを組み合わせるのが好きだった。紅茶淹れるのは兄の方が上手いのだけれども、スコーンを作るのはレグの方が上手だった。しかも、今の兄に至ってはカレーしか作らないし。



コトコトと、ティーポットに優しい音を注ぐ。

きっと彼がそろそろやってくる頃だ。彼がいる時だけは、この穏やかな空間がパッと明るくなるのだ。マスターはやかましい虫だと言うけれど、レグはあの賑やかさが好きだった。


ふと、水面に映る自分を見る。髪はぐしゃぐしゃになっていないか、服の裾がめくれていないか。リボンタイを結び直してから、カップをソーサーの上に優しく置いた。可愛らしいレースのペーパーを詰めた籠にスコーンを並べて、ジャムとはちみつとクリームチーズを小皿に盛る。



ああほら、外からパタパタと音が聞こえる。


レグはとびきりの笑顔で笑えるようにほっぺたを揉んでから……カラン、と鳴る柔らかなベルの音に振り返って、思い切って笑って見せた。



「いらっしゃいませ!」



Fin.

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