ラシャイシ/はじめてのおつかい(?)
- reisetu
- 8月2日
- 読了時間: 5分
此処はかつてライモンシティ中でポケモンバトルが強い事で有名だった主様の住宅。それは古き記憶であり、今ではすっかり古びた屋敷と化しているゴーストハウス。
時刻は17時。
リビングにある古時計の音と同じタイミングでパチリと目覚めるのはこの屋敷の管理人であるシャンデラのラシャである。
いつものように午後からの活動の始まりとしてベッドから起き上がるのだが、体を起こした途端に真隣からガタガタと派手な音がした。
宙に舞う僅かな埃に目を細めながらも音の鳴る方角へ顔を向ければ、小柄な少年がモップを片手にプルプルと盆踊りのような立ち姿で固まってしまっている。
「……おはようございます、イシス様」
「………お…おはようございます…」
彼はラシャと同じくシャンデラのイシス。
ナイトリリィという組織の一員で此処ゴーストハウスと共に幽霊列車がライモンシティの地下鉄に現れる事への調査を目的に訪れたポケモンである。
悪戯目的で此処へ訪れたのではない事を知った日からは時々こうして調査の協力者として対面するようになっている。
…それはそれとしてラシャの部屋にこっそり侵入してきたのは調査とは関係無いようだが。
「私の寝室で一体何をされていたので?」
「けっ…決してやましいことなどではなく…!ラシャさんが寝ている間に軽く掃除を済ませようとしただけで…」
どうやら掃除中にモップが本棚に強く当たってしまったらしい。
慌てて両手を上げ代弁するイシスの足元にはラシャが整頓して本棚に立てていた資料本が散らばっていて幸いにも花瓶は割れていないようだった。ラシャはイシスと本を片付け始める。
「…左様でございますか。客人にお手を煩わせて申し訳ございません。お怪我はありませんか?」
「は、はい。むしろ仕事を増やしてすみません…」
「お怪我が無いようでしたらそれで構いません。すぐに食事の支度をしますのでしばらくお待ちいただけますか?」
本棚に本を整頓し直し終えたところで身支度の準備に取り掛かるラシャにイシスもモップを持ち直し話を続ける。
「僕も手伝います。…いえ、手伝わせてください」
「…掃除といい何故このようなことを?」
「調査へ協力していただいているのもありますが客人として迎えてくれた事への感謝といいますか…。僕、今日は空いてるので」
「…左様でございますか」
彼は幽霊列車の調査に訪れている身であるが、こうして時々ラシャの手伝いをしようと進み出る事がある。真相は明確ではないが同じシャンデラの為惹かれるものがあるのだろうか。
ラシャは少しの間考える素振りを見せた後に分かりましたと首を縦に振る。仮に毒を盛ろうと動いてもラシャの目からは誤魔化せないのだろう。
こうして二人きりの食事の準備が始まった。
++++++++++++
「おや…きのみの在庫が尽きましたね」
エプロンを身に着け台所に付き雑談を交わしながら料理をしていたところ、コンソメ色のスープを煮込む間にラシャは食料が積まれた棚達を眺めながら呟く。
ひょこ、とラシャの隣から同じく食材へ目を通しながらもイシスは質問する。
「あの…少し前から思ってたんですけどこういった食材や道具はどこから仕入れてるんですか?」
「全て広場で買い出しをしていますよ」
「ライモンシティの地下鉄を使ってるんです?」
「いえ?貴方が乗車してきた列車です」
「それって………」
徐々に青ざめていくイシスの表情にも気にした様子はなく。
「ま、まさか幽霊列車なんて事は…」
「おっしゃる通りでございます」
「え………ええ…!?アレで此処以外の場所行けるんですかっ?っていうか正直いつ何処に向かうかも分からないのに危ないのでは…!」
「私には分かりかねますが…不思議な事に買い出しの日に乗車すると広場の近くで到着するようなのです。もう長い期間同じ方法で足を運んでいるので然程問題は無いかと」
「全然ありますよ問題!!」
全力でツッコミをいれるイシスには漫才の才能があるのだろうか。それともラシャの発言が問題過ぎるのか。
それはさておき話を聞くと広場は"ポケモン広場"と呼ばれるそのままのネーミングであり、なんでもポケモンのみが住んでいる場所らしい。人間との共存が当たり前のこの世界でそのような話は異例的で当然イシスも困惑していた。情報によると似たような噂はあるにはあるらしいが。
「せっかくですし食後は買い出しに参りましょうか」
「そ、そんな予約も時刻も無しに行けるものなんですか…!?ぼ、僕からはなんとも…その内容ではボスの許可が必要かもしれませんし…」
「では此処の留守番をお願い出来ますか?貴方様を帰還させるには同じく列車に乗車する必要がありますので」
「ゔっ」
ゴーストタイプではあるもののこんな広々とした静か過ぎる場所に一人で留守番を頼まれるのもイシスにとっては究極の選択だった。
とても苦い表情を浮かべた後にガックシと肩を下ろし「…………やっぱり行きます…」ととても小さな声で応答した。
++++++++++++
「アレッ?ラシャさん今日はポケモンと一緒なのかい?一人で来ないなんて珍しいね」
「えええ…………」
イシスとラシャは予定通り幽霊列車に乗車し無事とある駅に到着した。そこは自然に囲まれ人間の気配は一切感じられず、徒歩で10分程度歩いたところで執事が話していた目的のポケモン広場に辿り着く。
ガヤガヤとそれこそ人間の街のような設計になっているものの、やはり何処を見渡してもポケモン達しかいない。
というか広場で「号外号外ー!」と走り回って新聞を撒き散らすペリッパーがいれば、リザードン、フーディン、バンギラスといかついポケモン達が掲示板を見て何やら会議していたりと賑やかな場所であると共に得体のしれない感覚が混ざってイシスの脳内ではいつ危機感を感じ取ってもおかしくないところだった。いろんな意味で。何なんだ此処は。
新世界に絶句するイシスはそのままラシャの後ろを付いていくとカクレオンのお店までやってきたのであった。
「君もよかったら品物見ていってよ。良いもの揃ってますよ!」
「は…はひ………」
「ありゃりゃ。固まっちゃってるけど大丈夫かな?」
「彼は此処に訪れるのは初めてなので緊張しているのです。大目に見てやってくださいまし。…そこの食材の値段を聞いても?」
「流石ラシャさんお目が高い!」
(これ………幻覚じゃないならボスになんて報告すれば……)
淡々と買い物を済ましていくラシャの隣で最後まで呆然と頭を抱えるイシスであった。