top of page

EP 3-2

20180318.png

黒の王を喰ったのかと、スクナヒメは目の前にいる【双子】に向かって問い掛ける。
その声は誰が聞いてもわかるほどに怒りが込められたものであり、先程まで他愛無い話をしながら見せていた表情とは打って変わっていた。

黒の領域の最奥で、黒の王は消滅した。
ダークファルス【双子】の襲撃により不完全な封印となった禍津は、未だ白や黒の民に牙を向け続けていた。現状アークスの援助もあり何とか食い止める事は出来ているものの、ダークファルスの件をどうにかしなければ解決には程遠い状態。そこでスクナヒメは重たい腰を上げ、黒の王を説得し一時の協力を求めようと試みた。
その黒の王が、喰われた。
さらにダークファルス【双子】の発言から、禍津の対処をしている間既に黒の領域ごと喰われた可能性が高かった。
白の民、黒の民の中立の役目を果たしていた灰の神子、スクナヒメにとって確かに大切だった存在。彼女の心は怒りと判断を誤った事への後悔に満ち溢れている。
スクナヒメやマトイに睨まれた【双子】の一人は、彼女の問いに可笑しそうな様子で首を横に振った。

「違うよ、違うよ、全然違う。一人だけなんてかわいそうじゃない?ぼくが喰ったのは全部だよ」

​今度こそスクナヒメは絶望する。
最奥に向かうまでの間、まったく黒の民と遭遇しなかった原因が此処にいる。最悪な展開を否定する事も出来ず立ち尽くす彼女を、マトイは苦しげに見る。そしてスクナヒメの代わりに武器を持ち直し今にも手を出そうと構えた。【双子】はその様子を楽しげに見つめ、後ろに控えていたスウロは静かに翡翠色の瞳を向けている。
一時の沈黙。どちらかが一瞬でも動けば、それは戦闘の合図となる。

―――が、睨み合うマトイと【双子】の間にスミレが立ち塞がり、一同が目を丸くする。
マトイ達の会話をずっと黙って聞いていたスミレはからん、と下駄を鳴らし、マリンブルーのロングスカートを揺らす。
ふわふわと宙に浮きながら興味深く覗き込む【双子】と目が合うと、スミレは鞘から刀をゆっくりと抜いた。

​「ぼくとやる気?おかしいな、きみって確かそこの人達と敵対してなかったっけ?」
「…魔女ラビナと研究者ロルフッテはどこにいる」
「ああ、あの二人なら食べちゃった。とっても美味しかったよ」

ごちそうさま。
悪びれる様子も無く答える【双子】にスミレは目を細める。
彼女の中で考えていた可能性が確信へと変わった瞬間だった。ダークファルスはラビナやロルフッテの事を僅かながら知っている。それどころか、スウロ達の存在さえも一つ一つ認識しているのだ。

「でも、ぼくが食べちゃっても何も問題無いよね。だってきみもあの二人の事殺すつもりだったんだから」
「何も問題無いよね。だってあなたもあの二人の存在を否定するつもりだったんだから」
「そうだ。私の目的は多くの罪を犯した二人を世界の秩序の為に処分し、秩序を守る為に否定する事」

キン、とスミレは抜いた刀を【双子】に向ける。

「…喰った事が本当かどうかは、あんたの腹を斬れば分かると思ってな。だったら、わざわざこいつらと敵対する必要は無いだろ」
「あはは!おもしろいね。ぼくの腹を斬ったって分かりっこないさ」
「うん、分かりっこないよ。魔女の事も、研究者の事も、あなたは何も知らない」
「…ああ、もしかして」

【双子】の内の一人が何か考えついたのか目を輝かせながらぽん、と手を打ち笑う。

「最後に会っておきたかった?魔女ときみは友達だったんだもんね」

その発言は、辺りが凍り付くには十分な内容だった。
スウロは驚いた様子でスミレの背中を見る。マトイやスクナヒメも唖然とし、態度に迷いが生じる。
友達。
スウロはラビナやロルフッテと付き合いは長かったが、周りの者達との関係を知る機会は非常に少なかった。そのラビナが当時友人関係だった人物。彼女は世界の秩序を守る為かつての友人に手を掛けようとしていた事になる。
【双子】はくるくるとスミレを囲むようにして宙に浮きながら楽しげに話を続ける。

「ねえ、今どんな気持ち?悲しい?魔女狩りを命じられて苦しい?」
「世界の秩序を乱した友達が憎い?逆らえない自分が悔しい?」
「魔女…狩り…?」
「どういう事じゃ!スミレ…お主は一体、」

「――――黙れ」

​冷めたその低い一言で黒の領域はごろりと静まり返る。
異様な空気に当てられたスクナヒメはあまりの息苦しさに言葉を止め、不審な瞳でスミレを見る。張り詰めた空間の中マトイの額にはわずかに冷や汗が伝う。ビリ、と手が痺れ、肌が痛む。スミレはマトイ達に対し背中を向けているが、十分なほどに伝わってくる。今まで向けられた事のない感情にスウロは珍しく戸惑い、見守る他手段が思い付かないでいた。
【双子】はスミレの言葉に怯む事も無く、悪戯が成功した時の子供の様にケラケラと笑う。

​「わあ、怒った怒った!怖いねえ。でも知ってるよ。きみはこの世界では力を十分に出し切る事は出来ない。そこの神様だって禍津の対応で消耗してる。いくら神様とか秩序の戦士っていってもそんな状態でぼくたちに」
「そんな状態でわたしたちに立ち向かえるわけないじゃない」

​くるくると囲いながら語っていた【双子】の内の一人がスクナヒメの背後に回り、もう一人がスミレへ攻撃態勢をとる。スクナヒメは瞬時に状況を把握し鉄扇を袖から取り出す。がぱりと開いた【双子】の袖口。それは見る見るうちに巨大化し、鋭い牙が覆うようにして彼女らを襲う。
喰われる。ギョロギョロとした真っ赤な目と合ったマトイが驚愕しスクナヒメを救出しようと走る。【双子】の動きを止めようとスウロは呪文を唱え始める。
一瞬の出来事。スミレは大きく刀を振り下ろした。





私は世界の秩序を守る戦士だ。何があっても振り向いてはならない。
戦士は誰かを、何かを守る為にこの力を振るう。
それがかつて友達「だった」奴を葬る事になるとしても。

守る者に刃を向けてはならない。
自分の為に力を使ってはならない。

じゃあ今私がやっている事は、なんだ。
本当に秩序の為か?
それとも。

bottom of page