本編SECOND/ライルカ③交渉編
- 7月11日
- 読了時間: 14分
なき
「彼が噂のスパイスくんか?」
N
「まあそんなところだ」
仮面の人物の背後からひょこ、と姿を現したのは黒髪ロン毛の少女。彼女はレオンくんを見て心なしかウキウキしている。
仮面はへらりと笑みを浮かべたまま肩をすくませる。
N
「シャインマスカットの妖精のネタバレかもな」
レオン
「はぁ、スパイス?申し訳ないですけど、此処にあるのは精々カツ丼にかける調味料くらいですよ………カツ丼…?」
仮面の人物の声を聞き、ふと頭にとある記憶が蘇る。
レオン
「…………まさか貴方……カツ丼タダ食い男ですか?……そうですか…しばらく見ないと思っていたら、そんな姿に…」
N
「お陰様で」
なき
「神様がタダ食いしてたのかあ」
N
「美味かったぜ。きみが奢ってくれたカツ丼」
なき
「良かったな、ええと…カツ丼くん?美味かったらしいぞ」
変なところに感心したなきや訝しげに問うレオンくんの態度には気にしない様子であたかも自分の部屋のような感覚で室内に入っていく。
N
「まあ上がっていきなよ」
なき
「お邪魔しまーす!」
レオン
「神様?なるほど、タダ食いを納得させるための新手の詐欺ですか。残念ながら…私は無宗教ですので…」
そう軽口を叩きながら、扉を潜ろうとする二人の腕をがっしりと掴む。
レオン
「ああ失礼、応接室は其方ではありませんので。ご案内致しますね」
そう伝え、客人二人の手を引くように応接室の方へと歩みを進めた。
なき
「おおっ?」
N
「おっと失礼」
腕を掴まれた二人はレオンくんの案内に抵抗する事無くそのまま誘導される。
なき
「敵に押され気味って聞いてたけど案外のんびりしてんだな。あ、茶菓子ある?」
レオン
「すみませんね、先に仰ってくれていればとても美味しいお菓子を準備出来たのですが」
二人を連れ、応接室の扉を開ける。
室内には上質なソファが背の低いテーブルを挟んで向かい合わせになるように置かれていた。
レオン
「……さて、要件の前に御二方に自己紹介でもしていただきましょうか。貴方方は私のことをご存知なようですからね。一方的なのはフェアじゃないと思いません?」
なき
「はは!それじゃ次来た時に美味い茶菓子食わせてくれよ」
そう言って案内されたソファにNと共に腰掛け、彼女は元気よく淡々と話し始める。
なき
「おう、それもそうだな。オレはなき。なき・ヴァンベリー。よろしくなカツ丼くん」
N
「俺の事はマスカットでも何でも好きに呼んでくれて構わないよ」
なき
「言った方が良いんじゃないか?一応増援のつもりで来てんだし。オレが不老不死でこっちがオレを召喚した神。OK?」
N
「わお。アバウトだな」
レオン
「はぁ、増援ですか。お気遣いありがとうございます〜!別に頼んでいないのですがね!」
レオンは心の中で溜息をついた。どうして別世界から次々と入り込んでくるのか。ラララさん、繋いでしまった貴方のせいですよ。
レオン
「それで?私に干渉したのには理由があるのでしょう?なんでも良いですけど要件は手短にお願いしますね。見ての通り、忙しいので……」
レオンはわざとらしく、困り顔で溜息をついてみせた。
なき
「だってさ。オレもさっさと済ませたいな〜」
N
「じゃあ要望通り手短に話そうか」
ニコリと軽い笑みを浮かべたのち淡々と述べる。
N
「きみの上司に用がある。ファラグからの交渉の話だ。連れてきてくれる?スパイくん」
レオン
「上司?フレア総統…ならわざわざ私に干渉しないでしょうね。となると、ライムですか」
これが後輩相手なら、あの得体の知れぬ神に合わせることを躊躇ったかもしれない。しかし上となれば話は別だ。いつもこき使ってくれてるお礼をたっぷりとせねば。
レオン
「わかりました。すぐに呼んできますので、お二人はここで立ち上がらずにお待ちくださいね」
N
「…ラララとは上手くやってるか?あの時から変わっていないのなら、俺がきみに頼る理由はそこにある」
席を立つレオンくんへ声を掛ける。あの時、というのは世界滅亡時の事を示しているのだろう。
Nのいつになく静かで穏やかな声になきも僅かに目を丸くさせる。
N
「Leon・Crovis。きみに幸多からんことを」
レオン
「はぁ…………お気遣いありがとうございます」
扉をくぐろうとしたレオンは、少し目を細めてその人物を見ると…すぐ様貼り付けたような笑みに切り替え礼を述べる。
レオンの恋人は自分の生まれた世界に色々思うことがある様であったが、このように彼を祝福する神もいるのか…そんなことを考えながら、レオンは上司の控える部屋へと足を運んだ。
なき
「……珍しいな?」
N
「さて。何の話やら」
テーブルの上に置かれた花瓶を眺めながらぽつりと呟くなきにNはいつも通りの口調で答える。
そのまま二人は軽い雑談を交わしながら上司の到着を待つ。
コンコン、と軽いノックを二つ。
レオン
「ライム?クローヴィスです」
ライム
「…クローヴィス?お前、仕事はどうしたんです」
レオンの直属の上司であり、UNIONの監督者に当たるライムは手元の書類から顰めた顔を上げた。
レオン
「貴方に来客が。何も異界の"神"らしいんですよ」
ライム
「はぁ?遂に頭がイカレたんで……ちょっと。何するんですか…!」
レオンはこの腰の重い上司を動かす方法を熟知していた。それは物理的に引っ張り出すことだ。
レオンはそのまま彼をズルズルと引き摺り元いた部屋へと足を進めた。
なき
「それにしてもUNIONって大分静かだな。今が特に忙しいって事なんだろうが─────え?」
雑談途中でNの方を見てなきがぎょっとする。
Nが俯き気味で顔を伏せ吐血している。突然の光景になきのハイライトがフ、と消え失せる。
N
「…………、かふ、」
なき
「……………新手の仕業か?」
N
「…新手ではないな。……言葉は通じてる?」
なき
「ああ」
N
「じゃあまだ平気だな。続けて」
なきはそんな様子を見つついつもの調子に戻る。
なき
「神様って割に難儀な体してるなあ。器が合わないのか?」
N
「どうだろうね」
しかし名を呼ぶのは駄目だったか、と笑っていると遠くから聞こえる足音に気付き口元を拭う。そろそろ上司のお出ましだ。
コンコンコン、とノックを3つ
ライム
「──────失礼、お客人。お待たせ致しました」
例の商人とはまた違った部類の胡散臭い笑みを浮かべた少し小柄な男が、ステッキに毛を掛けたまま入室した。
彼を呼びに行ったレオンはそこに姿は無かった。彼の執務室に残されたのだろう。
ライム
「異国からどうもこの様な辺鄙な国へお越しいただきましたこと、幸甚に存じますよ。して…本日はこのライム・ビリジアンにどういった御用でしょうか?」
男は笑顔を張りつけたまま向かいソファに腰を掛けると、つらつらと言葉を並べた。
N
「待ってたぜ、上司くん」
なき
「あれ。クローヴィスは戻った感じか」
しれっと名を覚えたらしいなきはレオンくんがいない事にもいち早く気付く。ライムさんが着席し歓迎の言葉を聞いた後Nから口を開く。
N
「俺の上司ファラグ・テインからいくつか伝言を預かっている。まずは我が世界の住民達がエデン大陸の被害を拡大させる形となり深く詫びる…と」
N
「そして謝罪の意も込め協力及び同盟を要望している。スパイくん…君の部下の知人である破壊の使者"デストロイヤー"を人質に取っていたわけだが。和解し今彼の解放に備えている段階だ」
なき「ほら、今この大陸で俺らの世界の住民含めテロ組織やら黒曜石って奴に蝕まれた連中やらとドンパチしてるだろ?流石に無関係じゃないし俺らの神様も責任を感じてるって話」
なきが補足を入れながら背伸びをする。Nはそんな彼女の切り替えの早さに笑いながら続ける。
N
「もちろんそうタダで安々と受け入れるとは思っていない。ファラグはこの要望を聞き入れるなら増援の他今回の戦争後の土地の修復はこちらが保証するそうだ」
ライムさんへどうする?といった口調と態度で僅かに首を傾げてみせるN。
ライム
「……一つ質問が」
ライムは純白の髪をふわりと揺らした。
ライム
「其方の国から来られた使者による暴動においての責任…という点であればともかく、欠損者差別やG・Gの暴動、黒曜石における問題は我々エデン大陸が個人的に抱えた問題であり、其方に責任があるとは思えません」
ライムの部下であるクローヴィスの同居人が彼らの世界の住人であるが、その商人がエデンに留まる理由はクローヴィスにあるのだし。
ライム
「エデン大陸の戦力が十分では無いのは確かですが、双方の損益が平等では無い取引だなんて信頼に欠けると思いませんか?」
こう言ってみるも、彼らを信用してないという話ではない。単純に互いの損益の話だ。ライムは取引における天秤の傾きが大嫌いだった。ついでに言えば、デストロイヤーの解放に関しては割とどうでもいいというのがライムの本音である。
なき
「ま、はたから聞くと話が上手すぎるって思うよな」
ひょいひょいと乗っかる奴じゃなくて良かったよ、となきはカラカラと笑う。うちの上司はそういった事には疎いところがあるんでね。と肩を竦めるN。
N
「確かに欠損者差別やG・Gの暴動に関しては君達の問題だ。…だが、商人の回収処分を目的に研究施設から派遣された戦闘員達の襲撃による住民や土地の被害はこちらにも非がある」
N
「それに、黒曜石における問題に巻き込まれたのは何も君達における欠損者だけじゃない。こちら側の人質も敵側に付いた者も複数いる。それらも含め君達だけで解決出来ると言うならば、潔く引き下がろう」
一呼吸置いて静かにNは再び答える。
N
「それでも平等さに欠けると言うなら…そうだな、終わったらUNIONからの願いを一つなんでも叶えようか?」
なき
「わあ。神様らしいな」
ライム
「このエデン大陸への扉を開き、興味の赴くままに入ってこられたのはそちらの方々のご判断でしょう?それを僕達に責任を問われましても、ねぇ?
………と、言いたいところでしたが」
ライムは溜息を吐いた。
ライム
「其方とエデンを繋いだ例の出来事は元いえばあの馬鹿……いえ、僕の部下の失態ですので。上の人間として責任は取らせていただきます。ただし、あくまで協力するのは"僕個人"ですので悪しからず。僕の権限を使いunionを動かし、其方の住人を救出するお約束は出来かねますよ。そういうのはホラ、我々よりも適任がいるでしょう?」
ライムはファイルから『FF救助隊』と
でかでかと書かれたポスターを1枚取り出し、二人の前に差し出した。
ライム
「それと、人の世に疎そうなお二方に不躾ながらアドバイスを。取引において"なんでも"という言葉は禁句です。ああ、あと。貴方が神であることを漏らすのも控えた方がよろしいかと。何せ人の子は疑い深いので…それこそシャブを打ってるかとでも思われて、我々が出動しなければならなくなりますから。折角なので今晩は美味しいディナーでもお誘いしようかと思っていたところなのに、夕飯がカツ丼になってしまいます」
N
「否定はしないよ。だが商人や君の部下の罪滅ぼし…いや、尻拭いをするのも俺等の仕事なのさ」
なき
「恋は盲目って言うよなあ。世界が巻き込まれちゃたまったもんじゃねえけど」
人間っぽくて嫌いじゃないけどな〜とFF救助隊のポスターをピラピラとしながらにししと笑うなき。
N
「ま、君個人での協力だけでも十分影響あるし正直助かるよ。救助隊とは既に手を貸してもらってるし、増援や作戦に関してはそっちとも上手いこと自由に連携とっててくれ」
そしてライムさんからアドバイスを聞いた二人は数秒程きょとんとした後に笑い始める。
N
「俺はカツ丼でも構わないぜ?」
なき
「俺は今日はカツ丼の気分じゃねえなあ」
N
「はは。ご忠告どうも。"通常のやり取りなら"こう話してはないから安心してくれよ。…けど、それもそうだな。少し真面目に示してみようか」
そう言うとNは失礼、と席を立ち二人が見える部屋の少し隅へと移動する。そうしてNは透明な巨大紋章を地に描き詠唱に魔力を込める。
『物語に憧れた海の理想を聞かせておくれ。
どんなおとぎ話?そう、
彼の名は"人工神ルカ・ニカ"』
シーメルヘンワールド
-Sea Märchen world-
何重にも魔法陣が重なりNの足元から離れガラスのように砕かれる。
バリンと粉々になる魔法陣の粒達で遮られていた対象者の姿が見え始める。
パラパラと消えていく召喚魔術から姿を現したのは大きな翼を持つ一人の青年が座り込んでいた。
ライム
「ご快諾いただきありがとうございます。ああそれと…クローヴィスにつきましてはお好きな様に扱き使っていただいて構いませんので!」
ライムは満面の笑みを浮かべると、立ち上がる男を目で追う。溢れる光に目を細めながらも、その場所から決して視線を逸らすことは無かった。
そして目に映った翼の影に、ライムは賞賛の拍手を送った。
ライム
「これはこれは。大いなる神の商法を拝見する機会に恵まれようとは…私も、この職業に感謝せねばなりませんね。貴重な経験ですよ」
N
「スパイくんは引き続き動いてもらうさ。…さて、これで少しは本気と捉えてくれたかな」
おいで、と呼ばれた青年はゆっくりと立ち上がりNの少し背後までペタリと素足で歩き、顔を上げる。表情は色とりどりの花達で見えない。
N
「彼はこの世界ははじめてでね。環境に慣れるまでの間しばらく君のそばに置いてやってくれ。その代わり好きに扱ってもらって構わないぜ」
ライム
「おや。僕…いえ、私の傍で?私は構いませんけど…よろしいのですか?そんなに居心地のよいものでもないかと」
ライムは花を散らすその生き物を見る。明らかにこの世界ではお目にかかれないような、美しく神聖な生き物。興味が無いと言えば嘘になるが、借り物を壊すなんてもってのほか。しかし、ライムの立場上…彼の居心地のよい環境を整えられるかと言われれば、交渉の如く胸を張ってYesとまでは言えない。
ライム
「そうですねぇ…彼は主に何を食料としているのですか?肉食ですか?草食ですか?適性温度や湿度は?ああそれと、騒音や見知らぬ人間へのストレス耐性はどれくらいありますか?」
N
「せっかく召喚した早々お帰りいただくのは彼としても戸惑うと思うのでね。社会勉強のついでだ」
なき
「食べなくても翼にある栄養分で何ヶ月は持つんじゃないか?まあ、人間が食すものを与えられたら大体食べるよ。な、ルカ」
ルカと呼ばれた青年は僅かに首を傾げる。その様子になきはハハ、と笑いながら
なき
「温度とか耐性は少なくとも人間よりあるさ。アンタよりずっと年上だよ、ソイツ。泣き虫なんだからあんま泣かすなよ〜?」
ルカ
「……………。」
泣き虫という言葉にルカはピクリと反応したかと思えば、しお…と翼の形をした両耳が若干下がる。なきは気にせず救助隊の元にでも向かうつもりなのだろう、さっさと扉の先へと歩く。
Nはルカへと向き直りライムさんへ視線を向けながら指示をした。
N
「しばらく彼が主人だ。指示も彼からもらうと良い。彼を守るのも君の仕事だ。頼んだよ」
ルカ
「…………、……。」
ルカはライムさんへ視線を向けるが、花で遮られていて表情は見えない。
ライム
「なんともまぁ手早い交渉でしたね。時間は有限ですから、スムーズな分には構わないですが。互いに忙しい身でしょうしねぇ。………さて……契約内容に置きましては、人であろうと神であろうと守り抜いてみせますよ。ご安心を。お客様からの信頼が我々にとっては一番のステータスになりますから」
ライムはにっこりと笑顔を浮かべた。
そして花を浮かべる青年にゆっくり近寄る。食料や環境への配慮は必要無い…そうなれば、どこに置いておくのが適切だろうか?そんなことを考えながら、握手を求め手を差し出した。
ライム
「お初にお目にかかります、ルカさん…と言いましたか?僕はライム・ビリジアン。この組織の監視人で、本日より貴方の契約者となった者です。以後、お見知り置きを」
ルカ
「…………、」
呼び名はルカで正しいのだろう、小さく頷き差し伸べられたライムさんの手を両手でそっと握り返す。そうして次の命令を待っているのかそのままの状態でじっとする。
ライム
「おや、大人しい子ですね。成程、握手の概念は存在する…と。ああでも、惜しいですね。握手というのはこうして、上下に軽く手を振るんですよ」
ライムはされるがままの青年の様子は特に気に留めず、繋がれたままの手をゆらゆらと動かす。
ライム
「さて。お前も僕の下に着くというのであれば、本日からこのUNIONの一員になるということ。そうですね…お前はUNIONの職務と存在意義については聞いていますか?」
ルカ
「………」
両手で握手したままゆらゆらと縦に揺らす様子を眺めながらライムさんの問いに対し僅かに首を傾げたのちに横へと振る。
そしてライムさんの手の甲へキスを落とすと手を離し己からライムさんへ順に指をさし示した後その場に座り込みじっとする。
先ほどNがルカへ指示した"ライムが主人である事"、"ライムを守る事"を忠実に守り抜く様子でいるが、召喚されて早々に決定した為それ以外の事はどうやら知らされていないようだ。
ライム
「おや、熱烈な愛情表現ですね。これがお前たちのコミュニケーションですか」
ライムは物珍しげにその様子を眺めていたが、青年の指の動きを追い、彼の言葉を想像した。
ライム
「つまり、お前は例の神に与えられた指名以外は知らないと。わかりました。そうですね、簡潔に言うと警察です。警察は知っていますね?世の中の秩序を管理する組織です」
ルカ
「………」
UNIONについて説明し始めるライムの言葉に座り込んだまま静かに見上げ耳を傾ける。
警察というキーワードにルカは反応を示しじ…とライムの瞳を見る事で話の続きを待っているようだ。