本編SECOND/ファラデス③異変編
- 7月11日
- 読了時間: 11分
ファラグ
「…いえ?こちらの問題ですのでね」
デストロくんへにこりと微笑み返答するとさらに彼らの元へ近付く。ラララはレオンくんの問いには答えず向かってくる二人に目を細め見ている。
そして対面したファラグはレオンくんに向かって声を掛けた。
ファラグ
「やあ、はじめまして!平和の為のお努め大変素晴らしい事ですな」
ラララ
「……それで?レオンサンの話は事実としテ、オマエは何をしてるんでス?優雅に観光でもしてるんですカ??」
ラララはファラグに軽く会釈したのちデストロくんへ呆れた様子で話す。
デストロ
「お元気そうで何よりです。異国の商人殿。観光、ですか?そうですね…どちらかを選択するのであれば、観光者は私ではなくこの方かもしれません。私は付き添いです。カツ丼、とやらを食べてみたいそうで」
デストロイヤーは商人の青年の問にスラスラと答える。商人の横でにこやかに中指を立ててくる男の存在は特に気にしていない様子であった。
レオン
「観光客ですか?異国の方にUNIONの働きぶりを評価していただけるのは嬉しいですが…別にカツ丼はこの大陸の名物でも何でもありませんよ?何方に教わったんです」
ファラグ
「私の部下が度々此処エデン大陸を観光していたそうで、特にカツ丼が美味であったと聞いていましてな。部下が心から感想を述べるのは珍しい事なんですよ。それでいても経ってもいられず来ちゃいました♡」
そう言ってウインクして見せるファラグ。
ファラグ
「おっと、紹介が遅れました。私はファラグ・テイン。Reisetuと呼ばれる世界から参上しました」
ラララ
「………!…………ご丁寧にどうもありがとうございます。私はリアンと申します」
何かを確信したかのような冷や汗をかくような目は一瞬で貼り付けた笑みに塗り替えられる。そうしてラララは"リアン"と名乗った。
レオン
「………?」
レオンは首を傾げたが、特に言及はしなかった。安易に個人情報を漏らすべきではないのは、レオンの職務柄としても暗黙の了解なので。デストロイヤーも指摘するつもりはないようだった。
レオン
「わざわざご丁寧にありがとうございます。私はクローヴィス。UNION…ええと、この国の私営警察機関の警察官です」
ちなみに、異国の旅人にこの世界の話をするのも2回目だ。そこまで驚くべきことでは無い。実に感覚の麻痺とは恐ろしい。
ファラグ
「ええ、よろしくお願いしますね。ところでクローヴィスくんとデストロくんは双子ですかな?瓜二つで驚きました」
ファラグ
「そろそろお昼時でしょう?もし二人のお時間が空いているようでしたらご一緒しませんか?デストロくんもこの辺りの飲食店には心当たりが無い様で、カツ丼が食べられる場所を探しに救助隊を頼ろうとしていたところだったのですよ」
ラララ
(食べ物探索に救助隊を頼るなヨ…)
名に関して誰からも追求されなかった為内心安堵しながらも少々呆れる。
しかし油断は禁物であり本当は一刻も早く抜け出したいところだが、タイミング的に観光客に対し断りを入れるのは商人として自分らしくないと思われても困ると感じたラララは肩をすくめて見せる。
ラララ
「丁度一段落していますし私は構いませんよ。…カツ丼はちょっと分かりませんが…」
デストロ
「おや、良い案ですね。でしたら是非皆で」
レオン
「お断りします」
デストロ
「えっ?」
レオンは清々しいほどの笑顔で断った。
レオン
「私はデストロの野郎と共に食卓を囲むなんて生理的に無理です。我々は兄弟ではありません。所謂、ドッペルゲンガーです。つまり…目を合わせればどちらかが死ぬ。そんな命の危険が晒された状態で呑気に食事なんて取れるわけないでしょう?というわけで、私はお断りします。異国の方。折角誘ってくださったのに…ご期待に添えず申し訳ありません。」
今度はとても悲しそうな顔をした。顔だけだが。嘘しか言ってないし。
ラララ
(目を合わせて死ぬのならとっくの昔にお陀仏ですけド)
ラララ
「そういう事でしたら私もお暇します。…というか、周囲に詳しい警察が離脱するならカツ丼は諦めた方がよろしいかと」
ジト目でレオンくんを眺めつつもそこには口を挟まないラララ。
ファラグ
「なんと!ドッペルゲンガーとの対面でしたか!これは確かに無理強いは出来ませんね。残念ですが今回はデストロくんと二人で昼食にしましょうか」
しかしあっさりと引いてデストロくんの肩にポンと手を置きニコニコと対応する。それでは、と背を向けようとしたその時。
ファラグ
「─────ああ!私とした事が、浮かれて忘れるところでした」
パ ン、
彼は笑顔のまま懐から拳銃を取り出しラララ目掛けて胸と頭に一発ずつ撃ち抜き、ぶわりと血飛沫が散った。
レオン
「っ……!?」
デストロ
「えっ…?」
突如放たれた銃声、飛び散る血飛沫。
肉体を手に入れてから、まだ荒事に慣れていないデストロイヤーはその光景に固まることしか出来なかったが、レオンは違った。
レオン
「キキュイさん!」
相方の精霊を呼び寄せ、倒れる彼の応急処置に当らせる。
──────この男は異常だ。あまりにも殺気を感じ取れなかった。
辺りから水分を掻き集め水流を纏わせる。
デストロ
「あ、貴方何をしているんですか…!?観光をしに来たのでは無かったんですか!?」
戦闘態勢に入ったレオンを見て、ようやく状況を理解したデストロイヤーは連れの男に訴えかけた。
ファラグ
「もちろん!目的は観光ですとも。しかしながら少々予想外な事態になりまして。…おや?」
戦闘態勢に入り水流を纏うレオンくんへ即座に気付き追撃しようと拳銃を向け引き金を引こうとした途端、彼の足元から土で出来た壁が覆い被さりバクン!と飲み込む。
ラララ
「っ、死に、たくなかったら、ヤツから離れやがれくださいナ…!!」
土属性の魔術を放ったのはボタボタと額と胸部辺りから流血しヒュー、ヒュー、と荒い息遣いで上半身だけ起こし睨み上げるラララだった。
被さった土はバラバラと砕け落ち、やがて砂と化す。肩に掛かった砂埃を払うとラララの様子にファラグは喜び拍手する。
ファラグ
「なんと!あの至近距離で防御し致命傷を避けるとは!素晴らしい反射能力です」
ラララ
「っ、こ…のっ……よくも騙しやがったナ…!」
ファラグ
「いえいえ、騙してなどいませんよ。むしろ貴方の方こそ私に嘘を付いたのは何か理由があったので?神に商法は通用しませんぞ、『ラララさん』」
商人の言葉を聞いていなかった訳では無いが、かと言って下ろす訳にもいかない。奴は敵だ。敵に油断を見せるなど、許されない。
睨み合いが続く中、デストロイヤーはおずおずと男に話しかけた。
デストロ
「あ、あの…お二人に何があったかは存じ上げませんが、彼は知り合いの大事な人なんです……どうかこの場は穏便に……」
レオン
「……………デストロイヤー」
レオンは纏っていた水の膜を蒸発させると、自分とよく似た男を睨んだ。
レオン
「その男を連れて私の前から消えなさい」
デストロ
「……………わかりました。…ええと、観光に行かれるのでしょう?行きましょう。観光地のお店の閉店時間は他のお店より早いと聞くので、急いだ方がいいかもしれません」
しかしファラグはデストロくんの宥める声もレオンくんの忠告にも笑顔で返すのみで頷く事はなく、そのまま負傷したラララを見据えている。
ファラグ
「確かに私の目的は観光でありこの世界を荒らすつもりは毛頭ありませんでした。…ですがデストロくん、私は我が世界の住民が"無許可で管理外である異世界にいる"時点で見過ごすわけにもいかないのです。貴方も元神の下についていたのなら多少はお分かりでしょう?」
ファラグはそう言うと躊躇いもなく再び銃をレオンくんの顔に向ける。
ファラグ
「ラララさんをお渡しいただけますか?」
レオン
「お断り致します」
殺すならば自分も殺せ、と言わんばかりにレオンは青年の前に立ち塞がる。
レオン
「この世界を荒らすつもりがない?戯言は観光目的だけにしていただけますか?ラララさんに危害を加える行為はこの世界の住人である私に危害を加えるのと同義ですが」
デストロ
「…………」
デストロイヤーは何も言わず、青年とレオンを交互に見つめていた。
レオン
「そもそも、この世界の住人の誰一人ともラララさんが関わりを持たぬうちに殺しに来なかった貴方に非がありますよね?何故貴方の判断ミスの被害を無関係の私が被らなければならないんですか」
デストロ
「クローヴィス、彼は」
レオン
「黙りなさい元凶」
ファラグ
「おや、大事な存在である事は確かのようですね。喜ばしい事です。そうですね、貴方を巻き込んだ事には謝罪しましょう。…ですがどのような関係であれ貴方がたは異世界人同士。貴方の大切な人は貴方の世界の者ではありませんし、貴方個人の話で済むものでも無いのですよ」
にこりと表情を変える事無く対応するファラグは銃口を下ろさず続ける。
ファラグ
「此処の神の方針は存じませんが、すぐに対応出来るほど神が簡単に手出し出来るものでもありません。それに、我が世界にも情はあります。"失敗作"としての被害者への施しも、時間も、未来も保証のチャンスは何度か与えました。それらを振り切りこの世界に居座り続けたのは紛れもなく彼の判断です」
ラララ
「…………」
ファラグ
「…ふむ?ラララさん、貴方は彼に過去の事をお話されていないのですか?」
問われたラララはバツが悪そうに黙り込む。意外そうな顔をするファラグ。
レオン
「貴方方の都合など知った話ではありません。謝罪で済むのであれば、私達(警察)は不要なんですよ。過ちの対価となり得るのは代償のみ。だから我々や司法というものが存在するんです。ご理解いただけましたか?
……ああそれに。此処、エデンの地には異世界からの訪問者を区別する時代遅れな規則は御座いませんので。郷に入っては郷に従え。観光マナーとしては当たり前ですよ?観光客さん」
それこそ…この男が侵略者判定を喰らえば、エデンの神が動き出すだろう。そうとなれば世界を跨ぐ大きな争いが勃発する可能性も否めない。
レオン
「知りません。さて、そろそろご理解いただけましたか?被害者なんですよ、私。ラララさんから話を聞いていないどころか、貴方を中心に貴方の世界の存在にひたすら振り回されて、変な飴を食べさせられましたし、世界は滅びそうになるし…全く、大変でした」
デストロ
「……飴は貴方自身が………なっ!?」
デストロイヤーのこめかみのすぐ横を、弾丸が通り過ぎる。
レオン
「…………貴方がご自身を神と名乗り、其方の世界の代表としてラララさんを捕らえに来たというのなら、責任者は貴方でしょう。責任取って、私に償っていただけます?」
ファラグ
「困りましたねえ…貴方が彼を想う私情で動いているのではなく本当にラララさんに巻き込まれた者であるならば、尚の事責任者の私に引き渡さない理由が分かりません。ラララさんを手放せば貴方は被害者から晴れて自由の身です。それとも賠償金が必要ですか?……おや」
ラララ
「……っ、げほっ!」
そう話したところで何かを感じ取ったのかピタリと一旦会話を止め視線を空へと向け目を細める。ファラグが銃を降ろす間にやせ我慢していたラララが再度吐血し、咽る様子にも静かに見下ろしながら話を続ける。
ファラグ
「…すみません、どうやら"ラララさんのみの話では無くなった"ようです。彼も早く治療しなければ死にますよ。私としてはそれでも構いませんが…貴方は困るのでしょう?」
そう言うとファラグはデストロくんの隣に立ちヒョイと担ぎ出す。
ファラグ
「少し強引な手になりますが時間を与えましょう。ラララさんを引き渡さないのであればその間デストロくんはこちらで預かります。ああ、危害を加えるつもりはありませんのでご安心ください。…ですので、ね。ラララさん。貴方が異世界にいる限り様々な困難が待ち受ける事でしょう。それはこの世界にとって良い事なのかどうか。…良い返答を期待していますよ」
デストロくんを担いだままファラグは姿を消す。ラララは緊張の糸が切れキキュイさんを抱えたまま血の水たまりになった地面へ倒れ込み痛みで蹲る。
レオン
「………想像よりは悪くない展開ですね」
彼の姿が完全に消えたことを確認すると、レオンはべしゃりと音のした方へ向かった。
レオン
「ああ、キキュイさん。いいえ。そのまま治療を続けてください。私のエネルギーは直接使って構いませんので」
水晶の妖精に手を差し出すと、半透明な触手がレオンの手を包む。
レオン
「………彼の話は後ほど伺うとして…ラララさん、私はこのままで構わないと思っています。貴方が何をなさったのかは存じませんが、デストロイヤーが不要なことは紛れもない事実ですので」
仮にラララの安全を約束した上で返さねばならぬと…言われたとしても、デストロイヤーはいらないのである。
レオン
「彼はこの世界がどうこうと仰ってましたが、あれこそ神の視点から捉えていると言わざるを得ませんね。人間が、世界の因果関係なんて考えながら生きているわけが無い。我々人の子が見るのは自身の幸せと、あるとすれば小さなコミュニティ間の安寧だけです」
ラララ
「っひゅ、………かひゅ、」
空気の抜けたような音がラララの口から度々漏れる。ラララはなんとか呼吸を整えようと深呼吸を続け、止血に勤しむキキュイさんを抱いたまま痛みに構わず倒れた状態でレオンを見上げる。
その目からは"本当に良いのか"という意思が見える。
少なくとも追放自体はデストロイヤー自身も全能神への説得の為帰還したのもありラララも対して思う事は無いが、そのデストロイヤーが異世界の神に連れて行かれた事に支障は無いのかの懸念が少なからずあった。
ファラグが去り際に残した言葉に偽りはない。面倒な事をエデン大陸に持ち込まなければ良いが。
世界の因果関係に関して語るレオンから途中で視線を落とすとラララはそのまま瞳を閉じた。止血したところでしばらくこの身体は動かない。体力温存も含めさっさとレオンに身を任せる事にしたのだろう。