君の声が守ってくれる
- 7月12日
- 読了時間: 8分
遂に、遂に来てしまった。
画面越しに見るだけだったあの場所に。
ホムラは、降り立ったのだ。
(で、デカイ……!)
聳え立つのはカラフルなフラッグで飾られた豪華なスタジアム。
大会はエオス島のスタジアムで開催されることもあるが、他地方のスタジアムを貸切で開催された事例もしばしばだ。今回もその一例であると言えよう。
ここ最近は戦績が振るわずプロトレーナー達からもドラフトで選出されないことがほとんどだったが、ホムラだってエオス島にやって来てから一度も大会に呼ばれたことが無いわけではない。とはいえ久しぶりであることは確かだ。
大きなスタジアムに、グッズを手にした道行く人々。彼らのざわめきと共に盛大なファンファーレがスピーカーから鳴り響く。
この希望と興奮に満ち溢れた空気を再び吸うことが出来ようとは、誰が予想出来ただろうか?
全ては自分を支えてくれた友人な仲間のお陰だ。彼らが自分を呼び戻してくれたから自分はまだエオス島の選手として戦っていて、大会への選出権を奪い取ることだって出来たのだ。
そう、恩人と言えば…
(そういや、ライド達はチケット買えたって言ってたな…もう客席に着いてるのか?いや…アイツの事だし外の売店とかで道草食ってるに違いない…)
自分を一番に見つけて励ましてくれた同族の彼のことを思い出す。彼の声援は一回りデカい。だからこそ、ホムラがスタジアムのどこで戦っていたって届くのだ。彼のテンションの高さが役立つ時が来ようとは。
(…こんなところで立ち尽くしてるわけにもいかないな…俺は今回は出場選手なんだから、早くロビーに集まって作戦を練らな─────)
「おーいホム先?なにしてんのぉこんなとこで」
「うわぁっ!?」
ヌッと視界に入ってきた緑色に、ホムラは素っ頓狂な声を上げる。辺りの人々がこちらを振り返った。やめて欲しい、今から更に目立つことになるのに。
「か、カーニャ…!いきなり出てくるのはやめろって…!お前気配がないんだよ…」
「そぉんな驚くことかにゃあ?なんかぼーっと突っ立ってるから早く行かねぇと怒られるよって教えてあげただけなんだけど」
「そ、それはどーも…」
頭の後ろで腕を組みながらのらりくらりとホムラの周りをうろつく後輩のマスカーニャに、ホムラは溜息をついた。
「あっそーいやホム先、知ってるかにゃあ?今回シャモ先も出るんだぜー?合法的にボコれるチャンスじゃね?」
「いやボコるって……」
確かに大会ではぶつかることもあるが、一方的に相手のポケモンにダメージを与えることが試合の最終目的では無い。試合の勝敗はスコアで決まる。バトルは敵ゴールに点を入れに行くための手段に過ぎないのだから。
「……というかだな、確かに色々あったけど…俺がシャモのこと勝手に意識して避けてただけだし……どちらかと言えば、アイツには悪いことしたなって言うか…」
「そぉんな弱気だと点取られんぜぇ?シャモ先はホム先が出るなら本気でぶつかり合いたいって言ってたぜ?」
「えっ…!?」
まさかの宣戦布告。人伝ではあるが。
「同じ寮のほのおタイプでファイター…って役割が同じポケモン同士、戦ってみたいってな」
「あーそっか…そういう理由…」
後輩のシャモは過去の出来事をうじうじと気にするタイプではないことはわかっていたが、やはりそのようだ。
「ま、シャモはこの間の特別訓練から注目されてるワケだし、今回の大会でも呼び出されるんだろうから一回二回くらいは当たるにゃあ」
「ん……そうだな…。俺もちゃんとやらなきゃな」
後輩に喝を入れられるようではまだまだだ。
ホムラは、視界いっぱいに広がる戦場をもう一度眺めた。
──────あの場所で、俺は今日戦う。
******************
『おーっと!ここで決まったのはとどめのひとふり!今この瞬間、レックウザが微笑んだのは──────』
(はぁ………………やっぱり全然通用しない…)
前に出ようものなら敵に掴まれ、下がろうものなら撃たれる。過酷な争いは、ホムラの数時間前の高揚感を冷ましていった。大会に出れたからと言って戦績が残せなければ意味が無い。現実はそんなに甘くないのだ。
(アレックスも呼ばれてたけどあいつは上手くやってるのか…?…客席の方に戻ればライドはいるかな…)
今は昼休憩時間だ。選手達にもスタジアム内から出ないことと、集合時間までにロビーに戻ることを約束に自由行動が許されている。
気晴らしに友人の顔でも見に行こうとジャージを羽織ったホムラが更衣室を出たところで、廊下を曲がった先から言い争いのような声が聞こえた。
(な、何事だ…?)
気配を消しながらそろそろと近寄ると、曲がり角を曲がった先には…
べちんっ!
「………っ!………!!!!」
女性の怒鳴り声、それに続くのは走り去って行く足音。そして──────
「ん?ホムラ先輩?」
「しゃ、シャモ……お、お前何したんだ…!?」
くるりと振り返った後輩の顔には、くっきりとした手形が着いていた。
「うーーん?…………?……わからないんだぞ!!!」
廊下に響き渡る程の大音量で断言された。
「いやそんな理由も無しに叩かれるなんてことないだろ!?選手に暴力振るったってなればそれこそ裁判沙汰だし…」
「裁判かー?俺は訴えるつもりないからそんなことにはならないぞ!ふふん!」
そう言って自信満々に胸を張る鳥を、ホムラは呆れつつ見ていた。彼はいつだって元気と自信に満ち溢れている。ホムラとは真逆で…どちらかと言えばライドに似た性格の持ち主だ。
そんな彼のことがホムラは気に食わなかった。
タイプも役割も被ってるし、新入りだからってチヤホヤされて大会にも出れる彼が。今思えば情けない話だが。そんな奴だから彼に注目を奪われてしまうのだと気づいたのは、つい最近のことだ。
「あぁでも、俺のせいで応援してたチームが負けた?的なことを言ってたぞ!多分俺が午前中に戦って勝ったチームのどこかだな!」
「チーム……えっとつまり、さっきの女性はそのチームのファン…」
異常な程に熱心なファンというのはどのチームにも一定数存在する。応援していたチームが負けた時、そういったファンが掲示板に誹謗中傷を書き込むなんてことはよくあるのだとカゲが言っていたか。それがまさか、現実で殴り込んでくるとは誰が想像出来ようか?
「お前……何も悪くないじゃん。なんで怒らなかったんだ…?」
「だって、女の子に手を出したらダメだと思うだぞ!」
「お前…思ったより紳士だったんだな…?」
紳士か?そうかもしれないな!と目を輝かせる彼には勝てないとホムラは思った。自分は絶対無理だ。こうはなれない。だって、
「その、さ。痛いか痛くないかとかじゃなくて…やっぱり否定されるのは嫌じゃないのか?暴言吐かれたり、今みたいに暴力振るわれたりして……」
シャモはぱちくりと瞬きをした。
「うーん…?確かに道端のファンに怒られたり、石投げられることはあったけど…そんなに気にすることかー?」
「い、石!?いやそれは気にしろよ…!?」
どうやら会場にいるファンというのはホムラが想像していたよりもずっと治安が悪いらしい。しかしシャモはケロッとした様子で答える。
「別に石なんて俺たちにとっちゃ大したことないだろー?それに俺だけじゃないんだぞ!カーニャはSNSに色んな嘘書き込まれたこともあったし、リグ先輩は大会の近くになると家に100通の殺害予告が送られてくるらしいぞ!」
「問題しかないだろそれ!?なんで誰も対処しようとしないんだよ!?」
彼の口から出てくる事例がどんどんと犯罪に近いものに変わっていく。いや、デマの拡散や殺害予告は普通に訴えられるのではないか。
「全く失礼なヤツだにゃ〜?カーニャが何もしない訳ないだろ。あくタイプなめんな」
「うげっ…またお前…」
「うげってなんだうげって」
またもや斜め後ろからにゅっと出てきた後輩に、ホムラは後退る。
「カーニャってホムラ先輩と仲良かったのか?知らなかったぞ!」
「いんやぁべつにぃ、仲良しでもないぜ?んな事よりも、オレがそんな馬鹿共ほっとくわけねーだろぉって話にゃあ」
「…対処したのか?」
「当たり前だろ?カーニャは悪くないですぅ…って泣きながら謝った動画出したら嘘つきヤローの住所特定されて晒されたんだぜぇ?」
「えぇ……」
やっぱりカゲの言う通り物騒だ。画面越しの安全地帯から攻撃をしたって、その画面を突き抜けて反撃が返ってくることだってあるのか。
「だいたい、そんなの気にしてる暇なんてカーニャ達にあんの?」
「それは……まぁ…」
「ホムラ先輩!そんなに気にしないで大丈夫だぞ!俺たちは応援してくれる人の声だけ聞いてればいいんだぞ!」
「応援してくれる人…」
幼馴染の彼ら、救助隊のみんな。
誰よりも大きな声で声援を届けてくれるだろう異世界の友人。
「それに俺たちだって、敵じゃない時は先輩のことも応援してるんだぞ!なっ、カーニャ!」
「えーカーニャもぉ?カーニャはアオちゃん以外のヤツを応援なんてしたくないにゃあ?」
そうか。彼の声が大きいのは、ホムラ達を傷つけるような悪い声をかき消すため────
「………ってそんなこと、アイツが考えてるわけないか。声でかいの元々だし」
「んあー?何か言ったか?」
「声がデカい〜だってよぉ?シャモ先の悪口言っじゃね?」
「えっ!?た、確かに俺は声デカイって言われるけどそんなにかー!?」
「いや……こっちの話だよ。でもそうだな…確かにシャモの声はデカイけど、俺たちに飛んでくる言葉のナイフだって吹き飛ばしてくれると思うんだ」
例えばホムラが試合で上手いプレーが出来ず、ファンからの冷たい視線に怯えていたとしても…きっとこの後輩はホムラを見かければ遠くからでも手を振ってくれるだろう。きっとライドだって同じだ。やっぱり彼らは似ている。
「えっ!?褒められたのか!?」
「おいホム先、コイツの声のデカさを肯定するような事言うんじゃないにゃ…」
「ま、まぁ…罵倒よりはシャモの声の方がいいかなって…」
見知らぬ世界に迷ったホムラを助け、エオス島のポケモン達も救ってくれた救助隊。
彼らはこうして、ホムラが大会に歩みを進めることが出来た先でもホムラのことを守ってくれる。
(だから俺も、アイツらに良いところ見せなきゃな。アイツらの想いを世界に伝えるためにも、もっと強くならなきゃ──────)
ロビー集合のチャイムが聞こえる。
──────次は必ず勝ってみせる。
そんな想いを胸に、ホムラ達はロビーに向けて走り出した。