no title
- 7月12日
- 読了時間: 6分
「……彼らには申し訳ないことを……、……いいえ。こんなことを言うべきではありませんね。自分の死が他者に後悔を植え付けさせる展開なんて、フロウも望んでいないでしょうから」
ロビーのソファに腰をかけていたグロリアは、同族の青年を案内し帰ってきたリグにそう問いかけた。
「はい。あ、そう考えるとやっぱりツヴァイさんとフロウさんって相性良かったんですね。彼女の性格なら、数日後には立ち直ってますよ」
「…そうね、彼女はきっとそう。だけども………………貴方の同族の彼は?どうなの」
「えーフェイクさんですか?私あんまりその話したくないんですけどー…」
リグは尻尾を指先に絡めながら、頬杖を着く。
「さっきちょっと聞いちゃったんですよね。ツヴァイさんに攻め寄ってましたよ。ラブルさん達が止めてくれてたんで放って来ましたけど」
「………はー………でしょうね。そうよね…そうなるわよね………、……………いいですか、リグ。私たちは、あの子を殺してしまった以上、せめてもの償いとして彼女を守り抜く義務があります」
「はい、ザシアンさん」
「とはいえ……」
悪いのが誰かと問われれば、メフィストと……そして彼らを無関係だったはずのガラルの問題に巻き込んでしまったグロリア達にも、責任はある。
「フェイクにとって大切な人を奪ってしまったのも、また事実よ。だからこそ、彼がツヴァイに手出ししようとしたからと言って、彼を傷付ける権利も私たちにはありません」
「ん?ならツヴァイさんとフェイクさんをツガイにすれば解決するのでは?」
「そうね。貴方は何もわかっていません」
グロリア達は、ツヴァイとフェイクの関係性……そしてフロウの死により幸せが失われた人々をの幸せを、守らねばならない。
「フェイクさんとフロウさんは、何故仲良くなれなかったんだと思いますか?」
「はぁ?いきなり何よ」
「いえ。あのフロウさんですよ?いくらフェイクさんが顔だけが取り柄のレイプ野郎だったとしても、フロウさんは泣きつかれたら突き放すほど酷いポケモンじゃなかったと思うんです。あっ、泣きついてないからですね。成程」
「勝手に疑問を上げて自己解決するのやめてもらえる?…まぁでも、そうね。変わっていくフロウを認めることが出来なかった。受け入れることが出来なかった…のかもしれない」
ツヴァイは、フロウにとって命を張って守るほど大切な存在だったのだ。そんな彼女と彼が出会ったのは、グロリアがフロウの顔を合わせた日よりも最近の話である。まさか異国のポケモンがエオス島の選手と交際関係を築くとは思ってもいなかったが、その時は素直に祝福したと同時に、彼らにもまた自分達の存在が良い影響を与えられたのだと嬉しくも思った。
それが、こんな結果になってしまったことは残念極まりないが。それでもフロウがエオス島に来たこと…そしてツヴァイと関係性を持ったことを後悔していないのならば、他者も後悔なんてすべきでは無いのだ。だからきっと、フロウとよく一緒にいたポケモン達…ラブルやスークンは、ツヴァイを責めずに庇ったのだ。それは、エオス島に来てからのフロウの変化をも受け入れ、ツヴァイのことすら『尊敬する人の大切な人』として受け入れてくれていた証とも言える。
でも、きっとフェイクは違った。
彼とフロウの間に何があったのかは知らないが、彼はずっとフロウに執着していた。同時にツヴァイに干渉する様子も見られた。少なくとも、それが好意によるものではないことはグロリアにも見てわかる程だった。
「……彼は今までに、実際にツヴァイに手を上げたことは無かった…だから少なくとも、加害性は無いとエオス島は判断を下していた。フロウは警戒していたみたいだけど」
大切で憧れていた存在が、自分の知らぬ間に自分の知らない場所で大切なものを見つけ、自分のよく知る"その人"とは異なる姿を見せるようになった。これを肯定的に捉えて場合は成長と呼ぶのだろう。しかし、彼はこれを否定的に捉えた。過去に取り残された自分を置いて変わっていってしまった彼に、置いていかないでと叫び、忘れないでと縋っていたのかもしれない。
「……ツヴァイだけじゃなくて…彼の居場所を作ることも、今後の私達の課題にしましょう。これでも1つの命に釣り合う代償だとは思えないけれど、少ないよりは良いでしょう?」
「具体的にどうするんですか?」
「カレーを作りましょう」
グロリアは立ち上がった。
「カレー」
「そうです。フェイクの出身地は不明ですが、メッソン族はそもそもガラルで誕生した種族。つまり…全てのメッソンの帰る場所はどこまで行ってもガラル地方なのよ」
「ちょっと何言ってるかわからないですね」
リグは尻尾をくるくると指先で弄り始めた。
グロリアはそんな彼の様子など気にしていないが。
「ガラルに彼の居場所を作れば良いのよ。別に定住地とかじゃなくて、ふとした時に遊びに来れるような場所をね」
「ええと…エオスの方が良くないですか?フロウさんが亡くなった地に遊びに来いとか酷な気がするんですが…」
「わかってないわね。そんな考えだから貴方達の種族はいつまで経ってもヒョロガリなのよ。トラウマは克服しなければいつまでたっても付き纏う。反対に、克服してしまえば今後の人生で恐れを抱かされることは無い。だからこそ、多少無理にでも克服すべきなのよ」
「流石はザシアンさん。急な体育会系思想を押し付けてくる理不尽な辺りが伝説って感じします」
絶対にフェイクとは合わないだろうなとリグは思った。確実に否定されるし納得されない。
「まぁとにかく、アプローチかけるしかないわよ。彼って今までフロウを追いかける側だったのでしょう?それならきっと、誰かに追われる側は慣れてないわよね」
「慣れてないところを突いて落とす…と。流石はザシアンさん。小賢しくて素敵です!」
「違います。彼の周りには、彼のことを求めている人がいるのだと教えてあげたいの。それを知ってからどうするかは、彼の自由だけれど」
グロリアだって、ガラルのために走ることが出来たのは応援してくれた人がいたからだ。
助けてと叫ぶ声、ガラルを救ってくれと祈る声。
──────求められる力強さは、人にとってもポケモンにとっても大きなエネルギーになる。
それをただ、迷子の子供に教えたいだけなのだ。
「……………必要とされる温かさを、教えてあげたいだけよ」
さて、まず手始めにカレーを作ってガラルの記憶を思い出してもらいましょう。
そう言って、グロリアは干からびたトカゲを引きずり立ち上がった。
これは、傷心中の青年の元にキョダイマックスカレーが届けられるまでの話である。
Fin.
