ごはん
- 7月12日
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ガラル地方。密輸の市場独占を巡ったカルテル間の武力衝突は未だ絶えず起こり、善良な街の市民を怖がらせつつも、彼らに「知らぬ顔」をする術を身につけさせた。
かく言うこの『ファウスト』も、かつてはその"抗争"に励んでいた派閥の一つだった。しかし十数年前、『メフィスト』の奇襲によって解散に追い込まれた。こうして敵を排除した『メフィスト』は、今やカルテルの頂点に立つ市場の独占者となった。
『ファウスト』が解散に追い込まれたのは、リグ達双子ががまだジメレオンの時代だった。『ファウスト』を動かしていたリグ達の両親は、幼い息子が危険に遭うのを恐れ、遠く離れた孤児院にレグを"孤児"として預けた。対するリグは、彼らの元で"次代ファウスト"として育てられた。狙撃手として必要なのは狙撃の腕だが、狙撃手が身を守るためにはステルスは欠かせない。ひたすらに狙撃とステルスの術を叩き込まれたリグは、例の奇襲の中、ただひたすらにステルスを使って生き延びたのだ。
そうして生き延びたリグは、かつての生き残りを掻き集めて新たに『ファウスト』を結成した。新生ファウストに目的なんて無かった。ただ行き場を失った者達を集めただけだった。
それは彼らも、そしてリグも、同じだった。
ファウストは単純に行き場の無い者が辿り着く場所…という訳でもなかったが、他の派閥と繋がりが無く、戦力に数えられそうな人材は受け入れることもあった。
この少年も、その一人だと言える。
「…………」
「フロウさん」
動かなくなったモノなんて観察しても、何も面白くないですよ。そう言えば、少年はそれから目を離し、今度はリグの瞳をじっと見詰めた。
「…………。」
「な、なに……なんですか」
彼が事を理解しているのかはわからない。ああそういえば、殺すのは良くないことなのだから、こんな風に堂々と見せるのは良くなかったかもしれない。
リグは今まで生きてきて、殺しは悪いと教わったことは無いのだが。そんなものは本でも読んでおけば自ずと理解出来るものだ。少なくとも自分とその他、どちらがおかしいかなんて。
「この世は弱肉強食です。私は彼らを殺しましたが、殺さなければ私やフロウさんが殺されるんです。痛いのは、嫌でしょう?」
「………………」
手を差し伸べれば、少年はその手を握った。
変わらぬ大きさの手。違うところがあるとすれば、きっと彼の手はまだ綺麗だ。それを穢すわけにはいかない。だから、温かさなんて感じなくても、手袋のままで構わない。
「リグ」
「なんですか」
「ごはん」
「お家に着いてからですよ」
ああそう言えば。そんなこと逐一気にせずとも、彼はこの手で作った料理を、美味しそうに食べてくれるのだったか。リグにとってはどうでもよい夕食からだって、彼は喜びを得てくれる。
「フロウさん」
「……?」
「貴方はまだ、間に合います。まだ温かさがわかる内に……、…手遅れになる前に、此処から離れて……………そうです。教会とか弟がいる孤児院とか!どうで…」
瞬間、尻尾にビリビリと激痛が走る。
強ばった身体を震わせながら、不自然な動きで恐る恐る背後を振り返る。
回り込んだ少年が、リグの尻尾の先に歯を立てて食い込ませていた。
「ちょ、ちょっと!何するんですか!?それ痛いからやめてって言いましたよね!」
「………ごはん」
「私の尻尾はごはんじゃないって!何度も!言ってるじゃないですか!!!」
「…………、……」
「な、なんですかその目は…」
じっ…とリグを見詰める瞳は、言葉が無くともわかるくらい、明らかに不満を語りかけていた。
そんなに腹が減っているのか。拾ったばかりの頃はまさか彼がこんなにも、食事に対して反応を示すとは思ってもみなかったものだ。
「………帰る」
「………あーはいはい。わかりましたよ!お子ちゃまはさっさと帰ってご飯食べてクソして寝てください!それでいいで…痛っ!ちょっ、尻尾やめて!!!」
リグはいつだって彼を此処から追い出そうとしている。していても、こうして彼がすぐに飯をせがみ出すのだから。不可抗力だ。
今夜もまた、同じ食卓を囲むことになるだろう。
「フロウさん、ごはん」
「見りゃわかんだろ。今作ってる」
「ごーはーんー!!!」
「うるせぇこれでも食って大人しくしてろ」
むぐ、と口に乱雑に突っ込まれたのは焼いていた肉の切れ端だった。仕方ない、大人しくしてろと言われたので少しはしてあげるか。まぁ何秒間とは言われてないので、飽きたらまた騒ぎ立てるのだが。
美味しそうな香りがキッチンに漂う。
エオスの寮の個室には、ちょっとしたキッチンが着いている。まぁついている…と言っても、あるのはコンロと換気扇くらいだが。それでも一人二人で生活する分には困らない。
「皿でも出しとけ」
「いやです。つかれました」
「…働かざる者食うべからず」
「ゆうべはおたのしみでしたね」
指が吊りそうですよ、メガネのせいで。
そう付け足せば、フロウは仕方無いと言わんばかりのため息をついた。
リグはエオス島の選手で、フロウは救助隊だ。
リグは競技のパフォーマンスで、フロウは救助活動で、誰かを笑顔にすることが出来る。
決してこの手で生み出せるのは、死体だけでは無いのだと。そう気づいたのは、何時だっただろうか?
「…………つかれすぎてわすれました」
「疲れてなくてもオマエは何かしら忘れてるだろ」
「えーーっ!そんなこと!………あっフロウさんにワイルドチケットの招待券渡すの忘れてました。うっかり〜」
「いらねぇ」
べしっと叩き落とされる。
ヒラヒラと机に落ち行くチケットを目で追った。
「う、うわぁぁぁああん!フロウさんがぶったぁぁぁぁぁ!!!親父にもぶたれたことないのに!!!!」
「いい歳して泣き叫ぶな!さっさと食ってさっさと寝ろ!」
「め、めしょ…」
「…………………無理があるだろ…」
叩かれた部分がまだヒリヒリとする。
ああそういえば、昔は手をぶつけても痛くはなかった。確かそうだ、手袋をしていたから。
……手袋を外したのは、何故だったか。
「おい、手で食うな。食器を使え、食器を」
「ふぉふぇふぉひひふぃふぇふ」
まぁ多分、手で食べるためだろう。
何故なら新しいホロウェアはオアシススタイル。手食文化地域の服装がモチーフなので。
そういうことにしておこう。
Fin.
