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05
🌹 4話以降は台詞メインの簡易文章🌹
ざぁ、と心地よい風が地面から駆け上がる。日差しが強い中唯一の助けと言うべきか。
ハリー
「準備は良いな?」
そこは緑の香りが舞う草原の大地。ガンッとハリーは巨大な斧を地面へ突き刺す。緑の長髪をなびかせ強い眼でハリーは向かいに立ち尽くすシャフを見た。シャフは長い夜色のコートを揺らし吹き荒れる風と戯れる紫髪を手でかき上げ、その髪で見え隠れするルビー色の瞳でハリーを睨む。
+ + + +
ハリー
「今日は俺と一対一の勝負をしてもらう」
数分前の事。
カムチャッカやアルトレーデからピクニックの誘いを受けエコーを除くぷちりょーしゅか一員と共にこの広い土地まで着いて来たファフは、ハリーから本来の目的を聞かされ驚く。
ファフ
「あの…ボク……戦った事無いです……」
ハリー
「ああ、分かっている。今回俺と勝負するのはもう一人の方だ。軍に入った以上どの程度の実力か見極める必要があるからな」
ファフ
(そうだ…シャフの事、ボクも知らない…)
ハリー
「最古の吸血鬼の話は昔から絶えないが実際のところ能力をはじめ明らかになっていない点も多い。受け継ぐ者の力を知るには良い機会だ」
ファフ
「……勝負をする理由は分かりました。でも…」
ハリー
「でも?」
ファフ
(確かに力はありそうだったけど、今は…)
ちらりとシャフを見た後に話を続ける。
ファフ
「シャフさ…シャフは記憶喪失だって言ってたから…戦い方を覚えてるのか分からない…」
アルトレーデ
「あ、そっか。見た感じ記憶喪失の程度がそこまでとは信じ難いけど、自分の名前以外忘れちゃってるんだっけ?不便だね〜」
カムチャッカ
「あれからシャフくんの記憶に変化はありましたか?」
ファフは首を横に振る。カムチャッカはそうですか…と心配そうに彼女を見つめた。ぷちりょーしゅかの軍として正式加入して数日後。思った以上に彼の記憶喪失は重症のようで変わりなく戦闘スタイルも失っている可能性が高い。大丈夫なのだろうかとファフは不安になる。
アルトレーデ
「ま、軍に入ったからには戦い方を知らないとやっていけないんだし、いっそ一発勝負で痛い目みたら案外思い出すんじゃない?ははっ、なーんて…」
シャフ
『上等だコラ』
ファフ
「…………」
アルトレーデ
「え。なにその表情。もしかしてマジで乗り気??」
ハリー
「俺はそれで構わんぞ。ファフ、交代を頼めるか?」
ファフの不安は取り除かれなかったがいよいよ断りきれない雰囲気が漂い始めた為控えめに一つ頷くと、隣にいるシャフへ再び視線を向けた。ぱちりと目が合いファフはシャフへ心の中で問いかける。
ファフ
(戦えそう…?)
シャフ
『誰にもの言ってんだ?さっさと代われ』
ファフ
(どうしてそんなに強気なの…)
+ + + +
そして今に至る。
カムチャッカとアルトレーデは遠くの木陰でハリー達を見ている。カムチャッカは不安そうな表情をしていて、アルトレーデは面白そうに眺めていた。
カムチャッカ
「どうなるんでしょうね…」
アルトレーデ
「さあね。けどあの子中々出来そうだよ」
カムチャッカ
「あくまで試験的なものなので無茶しないと良いのですが…」
アルトレーデ
「まあその為に僕らがいるんだし大丈夫でしょ」
ハリー
「おい吸血鬼。一つ聞くが、貴様に攻撃したものはファフに影響あるか?」
シャフ
「…無い」
ハリー
「そうか。それを聞いて安心したぞ。思いきり戦れるからな!」
アルトレーデ
「って戦る気満々じゃん…ハリーらしいけどさー…」
カムチャッカ
「ハリーさん…」
やる気に満ち溢れるハリーの様子にがっくしと肩を下げる二人。対しシャフは呑気に欠伸をしさっさと始めろとでも言いた気な態度で見返していた。
ハリー
「――――そのふざけた態度がいつまで持つか見ものだな!」
シャフ
「!」
一気に間合いを取り振り下ろされた斧にほぼ直撃。加減はしているのか一応斧の杖の部分で腹を殴られる形になり、真っ向に攻撃を受けたシャフは背後の木々まで吹っ飛ばされぶつかる。咳き込みながら体制を立て直す彼の様子に顔をしかめながらハリーは攻撃を続ける。
ハリー
「どうした!貴様の実力はこんなものか。それともあれだけ大口を叩いた割には記憶喪失を理由にして逃げ腰か!」
シャフ
「…」
ハリー
(これは…拍子抜けだな)
ぐっと足に力を入れシャフの元へと走り斧の杖で肉体を突いていく。一振りするだけで空気が引き寄せられ暴風が靡く。様子を見ているカムチャッカ達もきっと目を丸くしている事だろう。
ファフ
『シャフ…!』
抵抗無く攻撃を受け続けるシャフの姿は戦を知らないファフから見ても無謀だった。ファフは真っ青な顔色で必死に説得しようと問い掛ける。
ファフ
『シャフ、やっぱり無茶だよ、止めてもらおう』
シャフ
「…」
ファフ
『どんな戦闘スタイルだったのかも分からないのに、こんな、一方的じゃ…』
シャフ
「……」
ファフ
『っ、このままじゃ、……シャフ…!』
シャフ
「…ーーーーーーYOU(ゆう)……」
が あ ん
ハリー
「な…!?」
突然の出来事に一同が固まる。今まで抵抗一つせずに攻撃を受け続けていたシャフが最後の一撃を素手で止めたのだ。引き剥がそうとするがその力は想像以上に強く、あの重量のある斧を振り回すハリーが身動ぐほどだった。
シャフ
「ファフ、てめえも見て覚えろ」
ファフ
『え…』
初めて名を呼ばれたファフは動揺して答えられなかったが、シャフは無視し掴んでいた斧をハリーごとブン投げる。地面に叩き付けられたハリーは怯み、シャフはその隙に素早く自分の指を噛み血で刻印を宙で描くとその模様はシャフの首元へと吸い付く。まるで蛇の様に絡まっていきファフが身に付けているお守り、十字架へと形取る。彼女の持ち物は赤色だが彼の十字架はサファイアに輝いていた。
ハリー
「そんなもの装備して何の意味がある!チャンスを逃したな…!」
起き上がったハリーが落ちた斧を片手で取るとシャフの腕に向かって今度は刃の部分で攻撃を仕掛けた。シャフはその斧をガンッと殴り弾き返し、拳が所々擦れ切れ血が吹き荒れる。その思い掛けない行動に僅かな戸惑いを見せたハリーにシャフは構わず彼の腹に向かって思い切り肘を突いた。
ハリー
「ぐあ…!」
今度はハリーが吹っ飛ばされる間、シャフは間合いを取らない様ハリーの真下へ突撃する。
アルトレーデ
「速い…!」
アルトレーデが思わず口にするほどそのスピードには隙が無く、あっという間にハリーの前まで近づいていた。シャフが腕を前へ振ると黒い墨の様な蝙蝠達が十字架から勢い良く無数に飛び出し、その群れは徐々にとある武器へと変化する。
ファフ
(あれは…弓?でも、形が…)
アルトレーデ
「あんな至近距離から弓…!?逆に的を狙いにくいんじゃ、」
カムチャッカ
「…!気をつけてくださいハリーさん!彼の武器は“弓ではありません“…!」
シャフの能力にいち早く気付いたカムチャッカがハリーへ叫ぶ。彼の手元から現れたのは弓矢の“矢“のみであり、それはみるみる内にシャフよりも一回り巨大な槍へと変化しハリー目掛けて力強く振り下ろす。
シャフ
「くたばりな、YOU!」
キィインッと金属音を鳴り響かせ槍は一直線に向かう。ハリーは咄嗟に斧を盾に身を屈めるがあまりの魔力の量に視界がぶれ、いよいよ手加減というものが出来ない状態へと引きずり降ろされる。何故ならば向かってくる槍の背後からさらに無数の矢達が生み出され、勢い良く彼が振り下ろしたからである。
カムチャッカ
「――――そこまで!!」
パ ァ ン ッ
と、破裂音が響き渡りハリーの顔の前で槍達はサラサラと砂の様に消えていった。驚いてハリーが斧を降ろし先を見ると、シャフは攻撃を続けようと空へと上げていた腕をカムチャッカが掴んだ事によって止められていた。
カムチャッカ
「…シャフ君の実力は皆さん把握出来ましたね?なのでここまでです」
カムチャッカの素早い行動でこの勝負は引き分けに終わった。
が。
シャフ
「邪魔するな。殺すぞ」
カムチャッカ
「……」
中断された事に苛立ちカムチャッカを睨み上げる。彼にとって久しい闘志だったのだろう、その瞳は興奮した色で血に飢えた吸血鬼である。
吸い込まれそうな赤色に睨まれ僅かに息を呑むがカムチャッカはじっと対抗して腕を離さない。一時睨み合いが続いた後、シャフは諦めたのか小さな溜息をつくと乱暴にカムチャッカの手を弾く。
シャフがふらつきながら背を向けるので慌ててカムチャッカが後を追う。
カムチャッカ
「傷が大きいです、手当てしなきゃ…」
シャフ
「うるせえ触るな!」
ファフ
『シャフ…』
シャフは不安げに見つめるファフの視線を受け取った後小さく舌打ちし、立ち止まる。抵抗する気が失せた事を把握したカムチャッカは「さあ、」とアルトレーデの元へと誘導した。カムチャッカよりも遥かに小柄な身体の一体何処からあの力が出ているのか不思議だと密かに思う。
アルトレーデ
「はーい、回復してあげるから二人共来てねー」
アルトレーデが遠くで手を振っている。やり取りを様子見していたハリーは自分の力で立ち上がるとシャフを睨む。
ハリー
「…確かに実力は分かった。しかし!今回は手加減してやったんだからな。俺が貴様に負けるはずは無いのだからな!」
シャフ
「ああ?ぶっ潰すぞてめえ!」
カムチャッカ
「ハリーさん引き分けですって…」
お互い傷だらけなのに口は元気であり、未だ言い合いをしている二人にカムチャッカは苦笑いをした。
ファフ
(これが、戦い……)
いつまでも動かない事にしびれを切らせたカムチャッカにより無理矢理連れて行かれるシャフを眺めながらファフは内心考える。
戦。初めて見て鳥肌が立った。はたしてこれから自分は一戦静観しただけで肩が震える程の状態で生き残れるのだろうか、と。
+ + + +
アルトレーデ
「あれ?ホズキの実が足りないや」
ハリー
「なんだと!?あれほど行く前に確認しておけと…」
アルトレーデ
「だってあくまで試験なのにこんなズタボロになってくるなんて思ってなかったし」
ハリー
「そもそもお前らなら回復魔法でちゃちゃっと治せんのか…?」
アルトレーデ
「ハリーは大丈夫だろうけどさ〜耐久性があるか分からない一般で育ったファフちゃんの体にいきなり僕らの魔力を大量に注いだら危ないかもしれないんだよね」
ハリー
「ああ、だから副作用が少ないホズキの実なんぞ持って来ていたのか」
カムチャッカ
「その理由が大半ですが、ここから帰還するまでの距離を考えるとなるべく魔力も温存しておきたいですもんね」
アルトレーデ
「深い傷は治したんだから二人共そのまま帰っても良いんじゃない?体力おばけのきみ達なら問題無いでしょ」
ハリー
「き、貴様怪我人を何だと思っているのだ!?」
カムチャッカ
「まあまあ…でもホズキの実ってこの辺り生息地じゃありませんでした?」
ハリー
「よしアルトレーデ、行って良し!」
アルトレーデ
「えー何で僕なのさ!?……ねえねえシャフ〜、確かファフちゃんへの傷の影響は無いんだったよね?ファフちゃんに代わってホズキの実取って来て貰えないかな〜これくらいのちっちゃい赤い実で多分そこの森ちょっと進めばいくらでもなってると思うからさ」
シャフ
「…」
アルトレーデ
「ひい!うわ怖っ。シャフサンコワッ!!」
カムチャッカ
「人に押し付けようとするからですよー」
アルトレーデの頼みに今まで黙って聞いていたシャフは明らかに不機嫌そうな顔をした。木陰で腰を下ろし休憩と共に傷の手当てをしていたアルトレーデは、シャフの一睨みに青ざめ空になった小さなバックを抱えて苦笑いをしているカムチャッカの背後へ隠れる。ドカリと座り込んで動く様子の無いシャフに対しファフはおどおどしながら話しかけた。
ファフ
『シャフ…傷、大丈夫ならボク行って来ても良い…?入れ代わってる間休んでていいから…』
シャフ
「…」
ファフ
『ボクはまだ戦えない…でも、少しでも役に立ちたいの……』
シャフ
「……チッ」
お願いと言う前にシャフはめんどくさそうに再度舌打ちをするとぐるりと視界が入れ代わった。急にシャフからファフへと姿を変えたのを目の前で目撃したハリー達は驚く。
アルトレーデ
「ファフちゃん!も、もしかしてOKって事…!?」
ファフ
「お願いしたの…ボクが出来る事ならしたいから」
ハリー
「しかし、一人で行くのは危険だろう?俺も行こう」
アルトレーデ
「え、結局ハリーも行くの?」
ファフ
「大丈夫…」
ハリー
「ううむ…だがな、奴ならともかくお前は軍に入ったばかりで…」
カムチャッカ
「心配でしたらファフちゃんにこれを渡しておきましょうか」
カムチャッカは小さな満月のブローチをファフに渡す。
カムチャッカ
「それは僕の魔力がこもったブローチです。何かあったらこれに強く念じてください。すぐに僕らが駆けつけますから」
ファフ
「………ありがとう…」
カムチャッカ
「これで大丈夫ですね?ハリーさん」
ハリー
「う、うむ。そこまで言うなら仕方あるまい」
カムチャッカ
「くす。過保護なハリーさんも珍しいですねえ」
アルトレーデ
「心配性な親父って感じ?でも可愛い子には旅をさせなきゃね〜」
ハリー
「なっ!お、親父だと!?そんなつもりは…」
ファフ
「………おとうさん…?」
ハリー
「…!?」
ファフ
「…」
ハリー
「……」
ファフ
「……行ってくる」
沈黙が通り過ぎるとファフは俯きながらその場を立ち上がり、小走りで近くの森へと入り込んで行った。
ハリー
「き、貴様らが変な事を言うから落ち込んでしまったではないか…!」
カムチャッカ
「ふふ、あれは照れているんですよ」
アルトレーデ
「可愛かったねえ〜ファフちゃん」
+ + + +
森の中へと足を踏み入れたファフは空を見上げた。ルニーシャ森とは違った空気と光がファフに向かって差している。大きな木々達が覆い囲むようにして並んでいて盛り上がった草むらにより地面らしきものもまばらであまり見当たらない。どこが正しい道なのかは分からないが、とりあえず進み出れば良いのかもしれない。
横でふわりとついて来るシャフは苛立った様子でファフを見ている。そんな目で見ないでほしい。しかし文句の一つも言わないところをみると、やはり予想以上に傷が深いのだろうか。あれだけの攻撃を直で受けていれば無理も無いが。
口をきゅ。と閉めて黙々と歩いていると、歩いた先にぽつぽつと小さな赤色が木々になっているのが見えた。近付いてみると苺より小粒で丸みのある赤い実が沢山顔を覗かせている。
ファフ
(あった…アルトレーデさんが見せてくれた実と同じ…)
ファフは慣れない手つきでホズキの実を一草ずつ取り始める。ドリーに作って貰ったゆるめのワンピースにエプロンドレスを少し持ち上げその上からホズキの実を回収する。
シャフ
『……おい。誰か来る』
ファフ
「え?」
いち早く気配に気付いたシャフがふと視線を後ろへと向けた。がささと草むらから見知らぬ影が現れる。
ティミリア
「あれ?こんな所に人がいる。何してるのー?」
ファフ
「!」
ファフも物音に気付き振り返るとがっちりとした武装をしている少年が立って不思議そうにこちらを見ていた。どこか気の抜けた声と見るからに戦闘服だと分かる格好とのギャップにファフは目を丸くする。グラデーション掛かった大きなマントに重めにデザインされた青色の鎧や兜で表情は見え辛い。何よりも目に止まったのは左腕に張り付く様に固定された奇妙な形をした剣だった。
ファフは怯えて後退り、シャフは静かに睨みつける。すると相手は空気を汲み取ったのか気さくに話し掛けてきた。
ティミリア
「あ!ごめんごめん。この格好じゃ怖いよね。襲うつもりは無いから安心して」
そう言うと自ら兜を外し顔を見せる。じゃらじゃらとピアスが鳴り鮮やかな空色を一つに束ねた長髪がふわふわと風で撫でられ、整える為に軽く首を振った後赤色の瞳でファフを見る。その赤い瞳はシャフの様な鋭さは無く、わんぱくな雰囲気が伝わった。
ティミリア
「いつも人に挨拶する時は兜を外せってアイリスに言われてるのにすっかり忘れちゃってたや。あはは」
ファフ
「………」
ティミリア
「ん?どうしたの?……あ、そっか名前まだ言ってなかったね!ボクはティミリア、ティミで良いよ。君は?」
ファフ
「……ふ…ファフ…」
ティミリア
「ファフだね!宜しくー!」
ファフ
「ひゃ…!」
名前が分かった途端ティミリアは戸惑っているファフへずんずんと近付き彼女の両手を取りブンブンと握手してきた。あまりの突然のことに対応出来ずそのまま腕を振られるファフ。シャフは黙ったまま様子見を続けているようだが、ティミリアの姿を見た途端警戒するまでもないと判断したのか先程のような殺気は僅かに緩んでいるようだった。ファフもシャフの態度を見て一刻を争うような危うさは無いと安堵する。
ティミリア
「それは…もしかしてホズキの実?」
ファフ
「…怪我してる人がいるんです…」
ティミリア
「ボクらそんなに歳離れてなさそうだしタメ口で良いよ!そっかあ、それで沢山とってたんだね」
立ち話をしていると「おーーい!」と遠くからティミリアを呼ぶ声が複数聞こえた。
ティミリア
「あ。この森抜けようと思ってたんだっけ。忘れてたー」
自分の目的をようやく思い出しティミリアはアハハと笑う。
ファフ
「森を抜けたいなら、一緒に来る…?」
ティミリア
「いいの?…って、ファフはどっちから来た?」
ファフ
「こっち…」
ティミリア
「ありゃ、せっかく気遣ってくれたのにごめんね。ボク達が向かいたいのは逆側みたいだ。ファフはこの森の奥に詳しい?隣がルニーシャ森だっけ、その森を出た街に向いたいんだけど結構迷うって話だからさ」
ファフ
「…うん……ボク、前はルニーシャ森の近くにある村で育ったから…」
ティミリア
「へえ、近くに村があったんだね!村は何処にあるの?もう日も暮れてきたし同じ方角にあるならそこで一泊お世話になろうかな」
ファフ
「え……」
ティミリア
「?」
ファフの顔色が曇った事に気付くティミリア。少々小声でより柔らかく話を続ける。
ティミリア
「…もしかして、ボクら行かないほうがいい?」
ファフ
「……ううん、歓迎してくれると…思う。………その、」
ファフは俯いたまま首を横に振る。しかし自分の故郷に関してどのような言葉をかけて良いか戸惑い一時的に黙り込んでしまうファフにティミリアは再び言葉を紡ぐまでの間笑って見守っていた。
ファフ
「……村は、ティミリアが向かう方角の途中にあるよ」
ティミリア
「そっか、ありがとう!それとティミって呼んでね?」
ファフ
「で、でも、」
ティミリア
「ティミ!」
ファフ
「………ティミ…」
おずおずと名を呼べばティミリアは満面の笑みを浮かべる。ニコニコと満足気に笑う姿にファフはどこか見覚えがあるような気がした。
ティミリア
「情報提供してくれたお礼もしたいし、今度会ったらみんなとご飯でも食べに行こう。じゃあ、またね!」
ファフ
「あ…」
そう言ってティミリアは大きく手を振りながら彼を呼ぶ声の元へと走って行った。
ファフはしばらく見えなくなった彼の背中を見送り、ホズキの実を潰さない様そっとエプロンを持ち上げながら来た道へ戻っていく。
+ + + +
アルトレーデ
「うん!これだけあれば十分だよ、ありがとうファフちゃん!」
ファフ
「いえ…」
カムチャッカ
「怪我も無くて良かったです。ハリーさんが落ち着かないので丁度迎えに行こうと思ってたんですよ」
ハリー
「お、俺は堂々と待機していたぞ!必ずや一人で帰還出来ると思っていたからな!」
カムチャッカ
(きっとファフちゃんがいた村が気がかりだったのでしょうね、ハリーさん)
三十分程で無事帰って来たファフにハリー達は安堵していた。
カムチャッカ
「そうだ、ハリーさん。あの人達が近くに来ていたみたいです」
ハリー
「なんだと!?それは本当か!」
カムチャッカ
「ファフちゃんに持たせたブローチから僅かに気配を感じました。なので恐らく…」
ハリー
「奴が近くにいるというならば俺は向かわねばならん、行くぞカム!アルトレーデはファフと先に帰っててくれ」
カムチャッカ
「え!僕もですか!?」
ハリー
「当たり前だ!ふはは見てろよ、今日こそケリを付けてやる…!」
ファフ
「??あの、ブローチは…」
カムチャッカ
「あ!ブローチはファフちゃんに差し上げますのでご自由に〜!」
アルトレーデ
「あーあ。ご愁傷さま。んじゃあ僕らは先に帰ろっか」
ずるずるとハリーに引きずられていくカムチャッカを唖然として眺めていたファフへアルトレーデが声を掛け二人その場から立ち上がる。
ファフ
「あの……奴って…?」
アルトレーデ
「ああ、奴ってのはハリーがライバル視してる少年の事だよ。とあるパーティのリーダーで出来たてっぽいんだけど中々実力があってね。まあ期待の新人ってところかな」
ぴくりとシャフが反応しアルトレーデの話に耳を傾ける。
アルトレーデ
「ハリーって右目が隠れてるじゃない?そのリーダーと一戦交わした時やられたみたいでさ。その頃から因縁の仲ってわけ」
ファフ
「ど…どうして戦いを…?」
アルトレーデ
「んー僕も詳しくは聞いてないんだけど…ほら、僕らって軍人なわけじゃん?武装集団に対してよく思わない人達もいるし、ましてや始末屋の名も有名なものだからきっかけもそんな感じかもね。…まああの人達との関係はちょっと違うかもしれないけど」
シャフ
『おい。そのリーダーはティミリアって奴じゃねえのか』
ファフ
「!」
アルトレーデ
「?どうしたのファフちゃん?」
シャフの鋭い一言に驚いて固まったファフの様子にアルトレーデは首を傾げる。ファフは高まる心臓を抑えながら震える声で問い掛けた。
ファフ
「その人…リーダーの名前って…」
アルトレーデ
「ティミリア。面白い子だよ、あの子」