top of page

 04 

🌹 4話以降は台詞メインの簡易文章🌹

あれから数日後。
短期間の中彼女ファフにとって思いもよらない出来事ばかりを体験し、ただただ明かされる内容に首を縦に振る事でしか返せないでいた。殺伐とした交渉は無事成立し、こうしてファフは命を絶たれず手入れが行き届き広々とした庭を堪能出来る場所でカムチャッカと茶を共にしながら過ごせている。

あたたかな日差しが庭に咲き誇る草木や花達をくすぐり、サラサラと心地よい風と共に音を奏でる。
ファフの向かいに座りティータイムを楽しむ彼、カムチャッカは不思議な人物で未だ慣れない新生活に戸惑うファフの様子に落ち着いた雰囲気でもてなし、にこにこと笑ってくれる。


この時間を彼と共にするおかげでファフは武装集団ぷちりょーしゅかの詳細をはじめハリー達の事もなんとなく把握してきていた。
流れゆきとはいえ新たな環境を与えられた恩をファフは一生忘れる事は無いだろう。未知の世界に怯みはするが一刻も早くカムチャッカ達の役に立てるよう彼女は必死に知識を得ようと情報を整理していた。
そう。全ては恩返しのため。彼女にとっては全力でも願いの内容はほんの些細な事だ。小さな可愛らしい花のようなか弱い望みなのだ。

シャフ

『くあー…』


ファフ

「………」


カムチャッカ

ファフちゃん?どうかしましたか?」

…この人の条件で複雑になっているだけで。

相変わらずこの人…いや吸血鬼シャフの姿はファフ以外見えない様で、ふわりと重力を無視し地面から浮いた状態で足を組み暢気に欠伸をしている。そうして退屈そうな目でじっとこちらを見つめてくるのだ。
視線にファフが息詰まると縮こまる彼女の様子に気が付いたカムチャッカが問いかけてくる。何でもないと首を横に振れば彼は?マークを頭に浮かべながらも再び紅茶に口を付け一息。

 

シャフ。記憶を失った吸血鬼。
彼がファフを解放する条件は記憶や肉体を取り戻す為の協力をする事。ぷちりょーしゅかを中心に条件を呑んだとはいえ未だ彼の存在には慣れないでいる。

カムチャッカ

「あ、そういえばハリーさんから伝言です。『軍に入るかどうか決まったか?』との事なのですが…」


ファフ

「え…」


カムチャッカ

「僕らとしてはなるべくファフちゃんを危険な目に合わせたくはありません。ですが、シャフくんの記憶を取り戻すとなると様々な経験と心当たりのある場所を探して回る必要がありますし…」


ファフ

「……はい」


カムチャッカ

「見た所シャフくんはかなりの能力を持ち合わせているようですが、体を借りている以上ある程度ファフちゃん自身もこの世界で生き残れる術を知った方が良いのも事実です。……ただ…ファフちゃんの気持ちの整理が、ね」

ファフ

(……ボクにそんな覚悟があるのかな…)


シャフ

『…おい。代われ』


ファフ

「え?ま、待ってーーー」

ぐるんと視界が揺れシャフとファフが入れ代わる。腕組みをして椅子にどかりと座り込んでいるシャフの姿にカムチャッカはパチパチと目を瞬かせる。

シャフ

「軍に入るからさっさと手続きを済ませろ」


カムチャッカ

「えっ。で、でもファフちゃんの決断が無い以上は…」


シャフ

「記憶が戻らない限り俺は女に取り憑いたままだ。手段を選ぶまでもないだろ」


カムチャッカ

「もう…確かにそうなんですけどもう少しファフちゃんの気持ちも考えてあげて下さい。彼女は戦闘経験も無ければまだ僕等より若いんですよ」


シャフ

「こいつはお前が思う程か弱くねえ」


ファフ

『!』

フン、と鼻で笑いまるでファフへ向けたような物言いをするシャフ。ファフは考える。

ファフ

(…確かに、この人が言ってる事は本当のこと。時間は…限られてる…)

ファフ

『…シャフさん』


シャフ

「あ?」


ファフ

『ハリーさんの所に行っても…良い…?』


シャフ

「…決まりだな」

ファフの言葉にシャフは目を細めると、話が掴めていないカムチャッカがいれた紅茶を飲み干す。飲み終えて椅子から立ち上がりその場を離れようとしたシャフに、カムチャッカも慌てて席を立つ。

カムチャッカ

「何処に行くんですか?」


シャフ

「女は承諾した。熱血野郎の居場所を教えろ、どうせ手続きもアイツを通さないと出来ねえだろ」


カムチャッカ

「熱血野郎…ってハリーさんの事でしたか。今の時間だと部屋にいると思います」

全てを聞き終える前に廊下へと歩み始めるシャフへカムチャッカがどこか気まずそうに声を掛ける。

カムチャッカ

「…あの、シャフ君」


シャフ

「何だ」


カムチャッカ

「ハリーさんの部屋こっちですよ?」


シャフ

「………早く言え」


カムチャッカ

「わああ、すっすみませんそんな殺気立てないでっ」

庭から繋がった長い廊下を歩きハリーの部屋とは逆方向へ足を運んでいたシャフを呼び止めたカムチャッカ。その一言により一層不機嫌な様子で睨み付けられたカムチャッカは慌てた様子で言葉を付け足す。しかしカムチャッカは何故か嬉しそうだ。怖くは無いのだろうかとファフは密かに思う。

カムチャッカ

「こうやってシャフ君とお話するの初めてですね」


シャフ

「…」


カムチャッカ

「ファフちゃん曰く何の繋がりも無いとの事ですがやはりお二人共そっくりですよねえ。記憶が戻ったら案外新たな関係が見えるかも?なんて」


シャフ

「うるせえ、黙って歩け」


カムチャッカ

「あ、待って下さいよー」

+ + + +

シャフ

「…言えるな?」


ファフ

『え…』


シャフ

「俺が行っても警戒されるだけだろ」

カムチャッカに言われた道の通りに進み、ついに目の前の小さな扉にたどり着いたシャフはファフにそう言い残すとまた、視界が一変した。
戻った。今はファフが地面に足をつけていてきょろきょろと周りを見渡すが、シャフの姿は無い。

――――ボクらはお互い意識をしなければ姿も会話も見える事は無い。

どんな能力かはともかく本当に一人で話を付けろという合図でもある。ファフはじっとドアを眺めたまま一時動けないでいたが、やがて控えめにノックをした。「入れ」という言葉が聞こえ、ハリーが居る事が分かるとファフはドアノブに手をかける。

フレドリカ

「まぁ…貴方がファフ様?」

ゆっくりとドアを開き視界を広げればベットや小物類を入れ込むタンス等が見えた中、ドア斜め横に立っていた女性が振り返る。ふんわりとした表情で、しかし立派な武装をしていた。

ファフ

(綺麗な、ひと…)


ハリー

「ん?…おお、ファフか!」

奥の方で大きな机の上に積み重なった書類を見ていたハリーがファフの存在に気付くと椅子から立ち上がり、二人の下へと歩む。女性の隣に並ぶと「よく来たな」と笑う。緑の長髪に凛々しい姿。こうして見ると性格は違うものの雰囲気がそっくりだ。

ハリー

「妹だ。数少ない女性の一人になる。仲良くしてやってくれ」


フレドリカ

「はじめまして、ファフ様。フレドリカと申します。ドリーと呼んで下さいな」


ファフ

「は、はじめまして…」

お互いペコリとお辞儀。

ハリー

「…と、用事があったんだったな。椅子に座るか?」


ファフ

「だ、大丈夫です…すぐに終わります…」

深呼吸をして気を取り戻しファフは背の高いハリーを見上げながらおずおずと、しかし何か決心した様な口調で一つ一つゆっくりと口にし始めた。

ファフ

「カムチャッカさんから話を聞きました」


ハリー

「…そうか」


ファフ

「………あの、ボク…出来ればハリーさん達の役に立ちたい。シャフさんの記憶も…取り戻せる様に……だから…」


ハリー

「…」


ファフ

「ボクを…、軍に入れてください」

一生懸命に言葉を絞りながら話すファフの姿を見てハリーの表情が柔らかくなる。そして言い終えて不安気に見上げるファフの頭を優しく撫でながらにっと笑った。

ハリー

「よし!決まりだな。これから宜しく頼むぞ」


ファフ

「!……はい」

手の温もりで思い出すのはもういない家族の事。じわりと目元が熱くなるのを感じ、隠す様に俯いて小さく頷いた。

ファフ

「あ、あの…」


ハリー

「何だ?」


ファフ

「………ありがとう、ございます…」

ファフの言葉にハリーとドリーは顔を見合わせた後、笑みを浮かべた。

+ + + +

ハリーの部屋から出た途端緊張の糸が切れたのか足が重くなる。ふらふらとしながらファフはシャフを呼ぶ。廊下を歩こうとしたところで足場を崩し、

シャフ

「だらしねえ。話は終わったか」


ファフ

『……軍、入って良いって…』

気付いたシャフがファフと入れ代わり視界が元の位置に戻った。隣でめんどくさそうにファフを見つめるシャフの姿を見ながらファフは緊張する声で伝える。

ファフ

『……あの…シャフさん…さっきは、ありがとう…』


シャフ

「うるせえ」


ファフ

『ご…ごめんなさい……』


シャフ

「…」


ファフ

『…』

ぐるんと再び肉体が入れ代わる。ファフは気を取り直して歩み始め、シャフは宙に浮いた状態でふわふわと着いて行く。
ふとお互い目が合い慌ててファフが逸らす。沈黙がちくちくと痛い。ファフは身を縮めて俯きながら歩いていると黙っていたシャフが口を開いた。

シャフ

『おい』


ファフ

「は、はい…?」


シャフ

『名前呼び捨てにしろ。敬語もいらねえ』


ファフ

「え…」


シャフ

『さん付けすんなっつってんだよ』


ファフ

「………」


シャフ

『……聞いてんのか!』


ファフ

「!は、はい…!」

突然の言葉に反応しきれないでいるとシャフが怒鳴り反射で返事をするファフ。
この会話きり何度目かの沈黙。しかし不思議とさっきまでの重苦しさは軽減されていた。

分からない。彼の考えが。
外見も性格も、共に行動するほど人間の印象を抱くというのに時々恐ろしいほどの冷たい雰囲気を持つ、そんな彼。自分の部屋に戻りドアを閉めると静けさが襲う。部屋の明かりを付けシャフを見ると、彼は何かを考え込んでいる様子だった。

ファフ

「…シャフさ…。――――!あ、」

勇気を振り絞り声を掛けたがさん、付けするなと言われた事を思い出し口元を押さえて停止するファフ。シャフは一瞬不愉快そうな表情をした後、『寝ろ』と一言残し、フ…と姿を消した。

bottom of page