ジュピN
「────あ?」
白。そこには壁も無く、行き止まりも無く、足場も何もかも白く青い世界が広がっている。白い世界で何を想いそこで泳いでいるのか。頭上を見上げれば熱帯魚、海月、鯨、シャチ、鮫といった海の生きものたちが通り過ぎ、足元を見降ろせば青く白い無数の花々が咲き誇っていた。
彼ジュピターは少しの間考える。これは夢なのか。現実なのか。
生憎彼創造神はシンフォニアにこのような空間を創った記憶は無い様子。しばらく歩いて見渡しても広がる世界は新鮮であり、しかしどこか懐かしさを感じさせる不思議な場所だった。
夢であるのならば心地良くも居心地の悪い"矛盾の巣窟"を楽しむべきか。いつ覚めるか分からない場所で珍しく騒ぎ立てる神子達や神の街にいる住人達の声が聞こえる事も無い静けさを堪能していると、ふと行く先で見覚えのある背中を見る。
「誰かと思えば。これはお前の仕業か?」
そうジュピターが問うが白いフードをかぶった存在は振り返る様子もなく立ち尽くしている。聞こえてなかったにしろ反応が無い事に訝しげに眉を寄せた彼は大股で花を荒らしながら奥へと進みやがて見知った存在へ手を伸ばし肩を掴みこちらへと振り向かせた。
─────ざりざり。
「ねえ、聞いてくれる?」
「いいよ」
「話し相手になってくれる?」
「いいよ」
「優しくしてくれる?」
「いいよ」
「抱きしめてくれる?」
「いいよ」
「友達になってくれる?」
「いいよ」
「私を庇ってくれる?」
「いいよ」
「私の味方でいてくれる?」
「いいよ」
「私の盾でいてくれる?」
「いいよ」
「私間違っていないから怒らないでね」
「私のやってる事は正義だから刃向かわないでね」
「私は違うけど貴方にとっての特別は私だよね」
「私は傷付きたくないし手を出したくないから、貴方が手を出してね」
「私いつも文句を言うけれど私は幸せじゃないから許されるよね」
「貴方は幸せそうだからその幸せ奪っても許されるよね」
「だから私の事いつでも慰めてくれるよね」
「だから私に同情してくれるよね」
「だから私にお金持って来てくれるよね」
「だから私に権力持って来てくれるよね」
「ねえ」
「私は正義がいい。だから貴方は私の為に悪者になってね」
「─────」
ざりざり。
ざりざりと記憶の音が聞こえる。この記憶は一体誰のものなのだろうか。
仮面の記憶であればその存在が神である事から矛盾が生まれ、バグが誕生する。仮面には人間の記憶が流れているのだろうか。肩を掴んだ瞬間映画のフィルムのように紡がれた今の連鎖は一体"何だ"?
────そうしてジュピターは閃いた。
その存在は"ERROR"だ。
振り向いた存在の顔は、表情は埋もれる花々で全く見えずまるで生気を感じない異質な光景にぶわりと重い空気が流れる。そもそも"神"に創られし"神"なのだから人間味を感じないのは当然か。
故に人間がその『仮面も身に着けていない存在』と目が合えば忽ち発狂し暴れ回り死に至るだろう。生命が視野に入れてはいけない。把握してはならない存在。
いつだったか補佐を名乗るノイズがNを高貴な存在として崇めていた破壊神の話を思い出す。
しかし今、ジュピターは同じ神として感じ取っただろう。
『それは高貴でも信仰対象でもなく生命全てのERRORなのだ』と。
だからこそ誰かが望む姿にも恐怖の対象にもなりえ、矛盾が創り出した世界が存在し、人間は人間の影・情報を致死量分与えられ狂い死ぬのだろう。
仮面は人間にとって神という名のバグなのだ。
「…よお。お前さんさ、我が世界を愛しているか?俺はシンフォニア、お前だとReisetu世界をだ」
ジュピターは静かにそう問うと肩に置いた手を離し顔に手を当て乾いた笑みを零す。
そして決して目が合うことはないだろうその花束へ顔を近付けさせ意地悪く笑ってみせた。
「俺は大嫌いだ
わざとトゲをつけて話すジュピターの答えにNはほんの僅かだけいつもの調子で笑ったような気がした。
▶神は神同士でしか表示されない
