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03
私は逃げ出した。無我夢中に。
私は否定した。自分の定めに。
「私は殺していない」
私は死神の火 <シモベ> に立つ化猫。私の名も、私の命も、死神から与えられた。
私は知らなかった。死神は命の裁判者だと。死神は生命を簡単に操作出来ると。私はただただ、その有様を眺めていた。
死神自身から何か命令される訳でもなく、すぐ隣で人の命が尽きる瞬間を見てきた。
神様の様に生死を扱う死神はこう言った。
「お前は変な子やな。お前に感情は与えへんやったはずやのに、こうして生命が終われば悲しみを表す」
「何故だろう」
「そやなあ、何故やろな」
「死神様は何故私を創り出した?」
「創り出したんやない。お前はただの死にかけていた白猫さ」
そう、私はただの白猫だったモノ。だからこそ人間並の感情は無かった。だからこそ動物並の感情はあった。
ではこの気持ちは何だ。人間並か?動物並か?
私は
「ほな調べればええんやない?」
「調べる?」
「お前さんが人間らしい事しはったらどっちかわかるやろ」
そう言われて私は考えた。人間らしい事とは何だろうと。
私が今まで見てきた人間は、にくしみ、かなしみ、いたみ、そんな感情が剥き出しになっている人間ばかりだった。
いや、今思えばそんな人間以外の「人間」を知らなかったのだ。
だから
だから
「ひとごろし」
人間らしい事をしてもそれは人間らしい事ではなかったのだ。
「何をした」
「人間と同じ事をした」
「ほう?人間を殺す事は人間がする事と」
「違うのか」
「間違ってはいない。せやけどお前は間違った事をしはった。何やと思う?」
「分からない」
死神は私の答えを聞くと笑みをさらに深くし、指を突き付けて大声でこう言った。
「お前は何ておぞましい『人間』だ!生き物をその手で殺めたというのに!お前は残酷な『人間』だ!!」
「なぜ」
「人間と同じ事をしたのに」
「では私が見てきた人間は何だったのだ」
「あれも全て人間ではないというのか…!」
「人を殺したお前に罰を与える!お前のその痣はお前自身を蝕んでいくだろう!」
「私は殺していない!!」
私は逃げ出した。
私は否定した。私は愚かだった。私は動物だった。
私は
私は
コロシテシマッタ
「ねえ、本当に貴方は動物なの」
ふいに問いかけられた言葉は、とても純粋なものだった。
逃げ出した足はもう立ち上がる力も無く、深い深い森の中で人に見つからないよう小さくうずくまっていた私に声をかけたのは、吸い込まれるような太陽の瞳を持つ少女。
「私は動物だった。ただの白猫だった。私は知らなかったのだ。人間を殺める事は人間にとって最大の罪なのだと、知らなかった」
「そっか。貴方はただ、人間になりたかっただけなんだね。人間の喜怒哀楽な心を間近で見すぎて、本来の貴方が消えてしまった」
「…そうなのかもしれない。私はただ、人間になりたかったのかもしれない」
「けれど貴方はなれなかった」
「私はどうしたら良い?」
「どうしたら良いと思う?」
「わからない」
「じゃあする?償いを」
「何をすれば良い?」
「助けるの。誰かを、何かを。それはどんなに償いにはならなかったとしても、恐れないで続けていくの」
『災いの元となってしまった者』
それが私達であり、私達の役目は『災いの元となってしまった者を助ける事』
私、剣磨。
ねえ、死神の火 <シモベ> に立つ化猫「死火猫」様、私と一緒に行かない?
私は静かに貴方の手をとった