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貴方はいつだって突然でした。
突然私を妹にして、突然魔界の王になって、突然魔王を私に託して、突然いなくなって。
貴方は何を想い私を魔王にしたのでしょう。貴方は何を感じ遠い場所へ足を踏み入れたのでしょう。
私は何処から生まれ、どうやって生きてきたのか、どんな道があったのか知りません。その日の内に知った事は、次の日に忘れていきます。
私は何も覚えていないのです。私は何も知らないのです。
ノートを毎日見て私は記憶を知るけれど、結局、私には何も残らないのです。
ねえ、兄さん。どうして私に魔王の座を託したのですか。どうしてこの世の災いとなってしまった人を助ける役目に相応しい人を探し、与える事を私にさせたのですか。
ねえ、兄さん。私知りたいです。
忘れても、知りたいのです。
そう、俺はいつだって突然だった。
突然君を妹にして、突然魔王になって、突然君に託して、突然旅に出た。
俺は君を想い魔王を託した。俺は俺を感じ遠い場所へ足を踏み入れた。
俺は何処から生まれ、どうやって生きてきたのか、どんな道があったのか全て知っている。どんなに小さな事でも一度しみたモノは決して忘れる事は無い。
俺は忘れる事が出来ない。俺は何も無くなる事はない。
それを望んでいなかったとしても結局、俺にはガラクタだらけの感情でいっぱいになる。
なあ、閏。俺はもうこれ以上知る必要は無いんだ。
知り過ぎて初めて気付く『無感情』。何も考える必要が無くなるのはきっとこの世で一番恐ろしい事だ
なあ、閏。俺は忘れたいのだ。
思い出しても、忘れたいのだ。
俺は忘れたい人。
私は知りたい人。
どうしてこうなったと思う?
はい、きっとこの世の災いを生み出す『心況玉』のせいですね。
そうだな。
元々心況玉は神の涙から生まれたモノ。神の涙は人々の涙、人々の涙は苦しみから生まれるモノ。それは災いの元でしかない。
けれど兄さん、涙にも綺麗なものがありますわ。きっとそれを忘れてしまったのが心況玉。
そう、私のように。
私達は思い出さなければならない。どんなにそれがつらくても生きる為には必要な感情の一つ。
そうか。お前はそう願うか。
ええ。私はそう願います。
だから兄さん、本当に忘れたいと思うのなら心況玉を全て破壊しましょう。
二度と意味の無い不幸が起こらない様に。兄さんの様に『後悔』が悪化するのを止める為に。
それがきっと、人々の願いだから
それがきっと、私と俺の願いだから
「はよう死にたい人と死にたくない人。一体どっちが幸せ者なんやろなあ」
死神よ、どうしてそんな表現をするんだ?
「これは生まれつきですわ」

私達は生きがいが欲しいから望んでいるのだよ