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 12 

本をめくる音。他の音など、存在しない。
そう、私には必要無い。

 

私の父も本をめくる音に夢中だった。しかしいつからだろう。ふと父は本をめくる音から、風の音に夢中になっていった。
本の様に決まった音ではなく、風の様に強弱ある音に、父は引かれていったのだ。
私には、理解し難かった。その強弱は私の父を置いて行った母と同じだったから。何故また好きになれたのだろうと、何故またその音を求め始めたのだろうと、私は不思議で仕方なかった。
風と、自然と触れ合う事が好きだった私の父と母。今更風に話しかけても、母は戻って来ないというのに。
私には、理解し難かった。

「何考えてるんだい」
「…さあ。妃風は何を考えているの?」
「あたしさ」
「そう。はっきりしてるのね」
「あんたは変わらないけどね」
「言う言わないは自分の勝手でしょう?」
「どういう育て方をされたんだい?まったく…」
「普通に」
「あのねえ」

本をめくる音。それはゆっくり、ゆっくりとしていて。私は今日も「風」と戯れながら物語を見る。
本の中の物語。それはゆっくり、ゆっくりとしていて。一パターンのお話を刻んでいく。変化の無い本を、私はただ読み続ける。

思えば、父は一パターンが…嫌いだったのかもしれない。何かを変えたいと、何かに触れたいと、そう思っていたのかもしれない。
私が本の中の物語に深入りをして人間で無くなった時も、父は涙を零しながら何度も何度も「すまなかった」と謝っていた。

思えば、父は一パターンが嫌いで、風とお話をする様になっていた。
強弱ある者達と、ストーリーを刻みたかった父。強弱になる理由が分からなくて、否定していた私。
そんな私に父は何を思って謝ったのか、私は未だに分からないでいる。

「…ねえ、妃風」
「なんだい?」
「父は、怒っているかしら」

「本の中のストーリーになりたくて、変わらない物語でいたくて、わざわざ死神に頼んで、妖怪になってしまった私を父は怒ってるかしら」
「本人に聞いてみたらどうだい」
「もういないわ」
「そうだったね」

「…人間って、短いストーリーだよな」


本の中のストーリーと現実の中のストーリーは違う。「風」という強弱を意識する様になってから、そう、何かに触れるようになってから、その言葉に理解出来るように少しずつ、少しずつ、私のストーリーにも影響が出始めた気がする。

「けど、短いからこそ…輝けるのかもしれないね」
「どういう、意味?」
「短いと強弱が激しくなるからさ。強弱があると、きっと誰かが手に取って読んでくれる。もしかしたら、人間が一番理解出来る事なのかもしれないね。自分は此処に居る、此処に居た。そんなストーリーを皆持っててさ、皆違うストーリーだから皆お互い惹かれていくものなのさ。なあ、そんなストーリーを描いていくのって凄く楽しいと思わないかい?」

「例えあんたの父が怒っていたとしても、あんたのストーリー、いろんな影響を受けたストーリー、娘のストーリーを見たくない奴なんて、いないさ」

一人一人のストーリーは短い。
本と一緒ですぐにボロボロになってしまうから。

けれど枚数を増やせば増やすほど、本は頑丈になっていく。人間も一緒ですぐにボロボロになってしまうから。強弱を求めていたのかもしれない。少しでも長く、ストーリーを楽しめる様に。

「私のストーリー。果たして面白いのかしらね」
「面白いさ。とっても。」

風の答えに、私は少しだけ微笑んだ

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