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「あたしの話を聞きたいかい、レキハ」
「いや、別に良いっすよ」
「あたしは昔から、風だった」
「話す気満々っすね。断る権利無いっすね」
「最近暇でねえ」
「っていうか風なのは誰でも知ってるっすよ、妃風サン」
「まあ聞け暗殺兵器サン」

そう、あたしは昔から風だった。姿も形も何も無い。ただの風。
風に意志がある?そんな馬鹿な話があるか。けれど確かにあたしは、存在していたのだ。


昔、風に話しかける男性がいた。
その行為は他の連中から見ると気味悪く思うらしいね。そんな周りの声も気にせず、毎日の様に話しかける男性。その男性は本が好きで、声に出して読んでいる時もあった。生物の話をしたり、動物の話をしたり、童話を話したり。特に自然について語る事が多かった。それはまるで風に読み聞かせているかの様に。時に激しい嵐の日でも。時にまったく風が吹かない日でも。毎日の様に話しかける男性はとても幸せそうな顔をしていて。

そんな表情を見て「風」自身もその内、嬉しいと思い始めた。

そう、これがあたし。あたしが生まれた理由。

「あの男性と話がしたいんやって?風さん」
「」
「お前さんも物好きやねえ」
「」
「そうかそうか、ほなお前さんに『姿』を与えてやろうか?もしかしたら喜ぶかもしれへんで」

あたしの姿を見た時、男性は驚いていた。しかしすぐにあの大好きな微笑みであたしを歓迎してくれた。
その後もたくさんの話を聞いた。

何故姿の無かった「風」、あたしに話し掛けていたのか聞くと

「妻がな、自然が大好きだったんだ」

そう、愛しそうに、話していた。
妻を思い浮かべながら、話していたのだろうか。

どんな気持ちでいたのだろうか。あたしに出来る事は、無いのだろうか。

「アンタのおかげであたしは生まれる事が出来た。恩返しがしたい、アンタは何を望むんだい?」
「望み?そうだなあ。こうして話をするだけで、十分望みは叶っているよ」
「それがアンタの望みかい?」
「そうだね」
「じゃああたしはこのままアンタの話を聞く事にするよ」

何年も、何十年も、あたしは男性の話を聞いた。男性を気味悪がっていた人達もその内、あたし達を見て微笑んでいた。
「仲が良いのね」とか、「お似合いね」とか、そんな事を言われるよりもあたしは男性に「ありがとう」と言われる方がよっぽど嬉しかった。

 


「…とまあ、あたしは今も昔も風だったって訳さ」
「だから知ってますって。大体何でそんな解釈になるんすか、意味不明っす」
「フン、餓鬼には分からないさ。…いや、兵器マニアと言ったところかしら」
「その後の話、どうなったんすか」
「どうなったも何も、そのままさ。そのままずっと彼の話を聞いて終わり。今は話す人が周りに居なくてねえ、退屈なのさ」
「居るじゃないっすか。…彼女が。」
「………ああ、そうだったね」

 

 

 


終わりというのは嘘だ。


「妃風…本当はな、以前言った望み、嘘なんだ。本当に望んでいるのは…傍に居て欲しい。傍に居て欲しいんだ」
「それがアンタの本当の望みかい?」
「ああ…けれど私はもう長くない。だから、娘の傍に居てやって欲しいんだ。私は、本当の事を言うのに時間を掛けすぎた。娘には私の様な臆病者に、なって欲しくないのだ。だから、寂しくない様に、お互いの支えが出来る様に傍に居てやってくれ」
「臆病者は、悪い事なのかい?人に嫌われるかもしれないと怯えるのは、悪い事なのかい?」

 

「あたしはそうは思わないよ。だってたった今アンタは本当の事、言ってくれたじゃないか。どんなに時間が掛かってもどんなに心に傷が出来たとしてもアンタは話してくれた。たくさん話してくれた。たくさん気付かせてくれた。たくさん叱ってくれた。たくさん聞いてくれた。たくさん抱きしめてくれた。そんなアンタが、あたしは大好きだよ」

だいすきだから ずっとお話を聞いていたんだよ

 

 

 

 



「…いやー、あの頃はあたしも若かったねえ」
「え、今更っすか!」
「そりゃどういう意味だいレキハ?アンタ最近良い度胸してんじゃないかい?」
「すっすんませんっす!攻撃しないで下さいっす!」

「……何やってるの。」
「あ、魔吏無サン!助けて下さいっす!」
「噂をすれば娘だねえ」
「もう少し本読んだらどうなの、妃風」
「冗談」

さて、アンタはどんな話をしてくれるんだい

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