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01
――――私は何かを幸せにする為に生まれてきた妖怪でした。
私が枯れかけた花に手を翳せば、花は美しい色を取り戻します。
私が今にも崖から転げ落ちそうになっている子供に手を差し伸ばせば、子供は風に吹かれ地面へと導かれます。
私にとって、生き物全てが家族です。家族に幸せを運ぶ事が、私の幸せだったのです。
けれど家族は私の事を『座敷童子』と呼ぶ代わりに、私の姿を見る事はありませんでした。目の前にいても、家族には私の姿は見えないのです。
私は少し、寂しいと思い始めました。
けれど私が悲しんでいては、大切な家族に幸せを運べなくなります。私は家族に悲しんでほしくはないのです。
だから私は繰り返し繰り返し、何度も家族に幸せを運び続けました。
それが私の役目だと、私の幸せだと心に言い聞かせて寂しい気持ちを封印しました。
そんな時、彼と出会いました。
彼は何故か私の姿が見え、私に話しかけてくれました。
とても、嬉しかったのです。とてもとても、舞い上がっていたのです。
毎日たくさんの事を話し、笑い合い、以前より家族に幸せを運ぶ機会が減っていきました。
いつしか彼とはかけがえのない大切な人になり、やがては大切な人だけでは物足りなくなりました。
そう、私にとって始めての我侭だったのです。
ずっと一緒にいたい
ずっとお話していたい
私の我侭を、彼は快く受け取ってくれました。
けれど。
けれどけれどけれど。
彼は不老不死の実験を行い、力の強い薬を身体に受けた瞬間空高く燃え上がりました。
赤くあかく焼けて、あっという間に彼は私の前から消えてゆきました。彼の炎はたちまち広がり、村全体を包み込みました。
そう、不老不死は禁断の薬だったのです。
私の我侭のせいで居なくなってしまった彼。私の想いのせいで消えてしまった家族達。彼らの笑顔を見れる日はもう、ありません。
私は泣き叫び、居なくなった彼らを探しました。
何度も何度も同じ場所を回り、何度も何度も同じ名前を呼び、返って来るのは自分の声だけ。
そんな時、私とは正反対の表情をした人に出会いました。
けたけたとわらうその人は私を見てこう言いました。
「お前の大切な人は禁断の不老不死を作ろうとして炎の粉となった」
「わたしは、」
「その炎の粉をかき集めるんは一体誰の責任やろね」
「わたしが、」
「そう、お前の責任、そやけど悪い訳ではあらへん。幸せになりたい想いは誰にでもあるのだから」
「お前には1000年の封印を与えよう。きっと記憶が薄れていくだろう。眠れ眠れ眠れ。沈め沈め沈め。その暗闇の中で、何を想い、何を苦しみ、何を悲しんだかもう一度思い出せば良い。そして忘れなければ良い。それがお前さんの責任や、千魔」
私は新しい体と、新しい名前を貰い、長い長い夢に落ちてゆきました。
ああ、死神様。
私の行為は、誰にでもあると言って下さいました。
ああ、死神様。
それでも自分の幸せの為に誰かを犠牲にした挙句、何もかも無くしてしまった私にこの封印を受け止める事などできるのでしょうか。
できなければ、私はまた封印されるのでしょうか