昔むかし、お姫さまと王子さまが結ばれる物語を読みました。
『女の子はね、みんな王子さまを待っているものなのよ』
当時のぼくにはよく、分からなかったです。
お姫さまのことも、王子さまのことも。
星の数ほど可能性がある事をぼくはまだ知らない。知り足りない。
だからぼくは外に飛び出した。待つことを知らない女の子。
王子さまはそんな女の子と結ばれたいと思うでしょうか。
物語のハッピーエンドを迎えたいと、思うでしょうか。
やっぱりぼくにはまだ…分かりません。
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拳脚乱王ラベイル「光の属性王リプトライト・スタン。星の属性王リュカ・プラネット。両者前へ」
此処は王様『拳脚乱王』が統治する小人の国。拳士村と乱士村の真ん中に建つ白い城で今、王ラベイルによる命が属性王達に告げられていた。
リプトライト&リュカ「「はい」」
属性王とは小人界に存在する魔法属性の頂点に立つ者達の事で拳脚乱王を護衛し小人の文化、言わば小人界文明の繁栄の為の活動を行う事を目的とする。
城の最奥で気品のある振る舞いを見せそこに立つラベイルの前に呼ばれた二人星の属性王リュカと光の属性王リプトライトが頭を下げ参上する。周りでは他の属性王達が静かに見守っていた。
リプトライトへの指示が終えた後にラベイルがリュカへ視線を向ける。
ラベイル「君は新たな異世界との外交活動に協力してもらう。ティカと天文学に関する知識の共有を頼みたい」
リュカ「天文学…ですか?」
ラベイル「ああ。君達天文学者の家系にとっても興味深いものになることだろう」
リュカ「ぼくらが知らない天文学、確かに興味深いですが……本当にあるのかどうか正直疑問です」
ティカ「んまあ強気ねえ〜!」
リプトライト「うむ。若き闘志は良いものだ!」
リュカ「後ろうるさいです」
途中で背後から割って入ってきた姉ティカと隣で聞いていたリプトライトの声にリュカはむす、とする。ラベイルはその様子にクスリと笑い先程の凛とした隙のない態度とは打って変わって穏やかな声でこう答えた。
ラベイル「君は今回が初めての外交活動になる。きっと様々な感動が待っている事だろう。もちろん、君の活躍にも期待しているよ」
リュカ「……外交の事は場所によりますが王様の為でしたら行ってくるです」
ラベイル「助かるよ。ではムルクの鏡の調節が終わり次第伝達を送ろう。それまでに支度を終わらせるように」
リュカ「はいです」
リプトライト「承知した」
外交活動の協力をすることになった二人が答えるとラベイルも頷き、異世界へ移動する手段として必要なムルクの鏡の場所指定等の調整を行いに城を出て行った。
拳脚乱王がいなくなると他の属性王達もぞろぞろと帰還していく中、リプトライトがリュカとティカへ声を掛ける。
リプトライト「その年で外交活動の交渉を頼まれるとはな。鼻が高いぞ、リュカよ!」
リュカ「どうしてあなたが嬉しそうなんです?」
ティカ「うふふ、当たり前じゃない!私の自慢の妹なんですもの!」
リュカ「お姉ちゃんまで……はあ…先が思いやられるですね…」
ティカ「そんな事言っちゃって〜本当は王様に認められて嬉しいんでしょ」
リュカ「………まあ、否定はしないです」
リプトライト&ティカ「「だよな(ね)〜〜!」」
リュカ「ぼ、ぼくの事は良いですからさっさと準備しますですよ!王様の用意はとっても早いんですから」
リプトライト「おお、そうだな。急いで部下達に報告するとしよう。ではな!健闘を祈る!」
リプトライトが一足先に城の廊下へと出て行く。その背中を二人も追った。
……………。
ラベイル「指定は出来た。準備は良いな?」
リュカ&ティカ「「はい」」
ムルクの鏡は森に囲まれた状態で城の背後に設置してありかなりの大きさだ。鏡は水面のようにゆらゆらと揺れていて魂のようなものが沢山映し出されている。
リプトライトの転送も終えいよいよリュカ達の番になり彼女は僅かに緊張する。ふと手を繋いできたティカへ視線を向けるとティカは可愛くウインクしてみせた。姉やリプトライトは既に何度も外の世界での文化を見てきている。敵わないなとリュカは内心思った。
ラベイル「では、行ってきなさい」
王の合図と共に二人は息ぴったりにムルクの鏡の中へと踏み入れていった。
―――――――――✃
空間。
呼吸が出来る海の中を水族館感覚で彷徨っているような、そんな空間をリュカとティカは水流に逆らわず目的地に辿り着くまでの間宙に浮き移動していく。初めての体験に不思議な感覚を持つリュカ。
リュカ(これが世界と世界の狭間…というものでしょうか。確かに生命は皆海から誕生し繋がっていると聞きますが)
ふと、何かが視界をよぎる。
まず海では見掛けない真っ黒な翼。それは少なくともリュカ達小人が進化と共に取り入れられた翼の形状ではなく、ましてや悪魔の羽でもない。むしろ天使に近かった。
リュカ「え……?」
堕天使。そうリュカは見て取れた。しかもこちらの世界で謳われている堕天使セリアとは全く雰囲気が違う。驚きで固まっていると堕天使はこちらへ視線だけ向け心なしか笑ったように見えた。
ティカ「そろそろじゃないかしら!逸れないよう私の手を離さないでね!」
リュカ「!は、はいです!」
ティカに声を掛けられ意識を再び集中させる。あの堕天使の姿はもう見えなかった。
………。
ティカ「着いたわーー!」
ティカが万歳と両手を上げ喜ぶ先には木々に囲まれて建つ白い建物が見えた。
リュカ「此処で交渉する…です?」
ティカ「天体科学館、いかにもって感じの建物よね〜!そういえば今回の世界って私達小人の事分かるのかしら?」
リュカ「実在にしろ仮説にしろ小人という存在があるかどうかで変わりそうですね。……今ぼくらの姿を見ても小人とは思わない気もしますですが…」
ティカ「私達マジック・リーズがいなくても人間姿になれるものねえ」
そう言っていそいそと身嗜みをチェックし始める二人。
マジック・リーズ<選ばれし時の魔法使い>とは相棒となる魔術の素質がある人間の事で、通常王から与えられた様々な試練をパートナーと共に取り組み実力を上げる仕組みになっている。試練中の小人は未熟な為パートナーと契約し魔力を共有する事で人間姿になれるのだが、リュカ達は属性王にまで行き着いた実力者である為パートナーがいなくとも自らの魔力で補強可能なのだ。
実力者である分試練の必要がない代わりに小人界や次世代の未来の為外交活動に力を入れる機会が多い様子。これも昔ながらの小人の文化である。
ティカ「王様が言うにはこの世界には異世界出身者が多いみたいで比較的外交活動にも抵抗無いみたいよ。対立はあるらしいのだけれど…」
リュカ「どこの世界でも争いはあるです。…王様は此処に来たことがあるですか?」
ティカ「さあ……でも事前情報があるんだから誰かは来たことがあるんじゃないかしら?それよりも!」
ティカは表情を明るくしながら天体科学館の玄関へと歩いていく。リュカも後ろから続いた。
ティカ「異世界出身者が多いって事は資料もたんまり眠ってるに違いないわ!素敵な街並みとか食べ物の歴史も知れるかしら〜!」
リュカ「ぼくは天文学や地学が分かればそれでいいです」
ティカ「もう、時には冒険も必要よ?」
天体科学館の中へ入るとまずそこには星や宇宙についての様々な展示と映像で広がっていて二人でわあ、と声を上げる。
リュカ「良いですか?王様からいただいた依頼で十分冒険出来てるですよ。寄り道は厳禁です」
ティカ「それはそうだけど…ねえ。どうして王様は私達の得意分野である天文学の学びを今回外交活動に取り入れたんだと思う?」
リュカ「……?ぼくらの得意分野だからこそ効率良く異世界のまだ見ぬ星々の研究を行い発展させるのが目的じゃないです?」
ティカ「ふふ、流石私の妹ね。けれどそれだけじゃないと思うわ。確かにそれも大切だけど王様のことだからきっとリュカの事も考えてるのよ。発展は文化だけじゃない、ってね」
リュカ「ぼく?…よく分からないです」
ティカ「まだまだ乙女の成長は続くって事よ〜!きゃーーーっ可愛い〜!」
リュカ「む。お姉ちゃんいつもぼくの事子ども扱いするです。…ち、ちょっと聞いてるですか?あとそんなに騒いだり走ったりしちゃ駄目です!」
リュカを茶化した後に大アーミラリーのレプリカのところまで走っていくティカを慌てて止めようと追うと、
ドン!
リュカ「ひゃ、」
カスピエル「!」
とある長身の男性にぶつかり転けそうになるところを手を掴まれ難を逃れる。
カスピエル「す、すみません。まさかこちらに向かってくるとは思わなくて…お怪我はありませんか?」
リュカ「え………は、はい……」
ティカ「あらやだ、ごめんなさい!お兄さん背が高いのに気が付かなかっただなんてお恥ずかしい!」
ティカも今になって気付いたようで目を丸くしパタパタとこちらへ走ってきている。宙に浮きそうになったリュカの身体をそのままそっと手を引き元にいた位置に戻す。見上げるほどの長身の男性はティカの言葉に苦笑いを返していた。
カスピエル「お取り込み中のようでしたのできりが良いところまで待機していたのですが…驚かせたようで申し訳ないです」
リュカ「こ、こちらこそお騒がせしてすみませんです」
互いにペコリと一礼したのちにリュカはチラリとカスピエルくんを見上げる。
蜂蜜色の透き通った瞳にすらりとした細くも男性の体型。表情も比較的柔らかく丁寧に対応する声は落ち着いている。リュカはいつの間にかしばらくじっと見つめてしまっていた。
リュカ(………絵本の中の王子さまみたいなひと、はじめて見たです。堂々としたリプトライトさんとはまた違った印象です…)
カスピエル「申し遅れましたね。私はこの科学館の館長をしているカスピエルと申します。お二方は見学をご希望でこちらに?」
執筆中……
続き少しずつ追記していきます
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