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「お前もしかして噂の鏡夜?こんなところで何してんだ」

 

びくり。
 

肩を震わせおずおずと振り向いた私を不審げに見つめてくる知らない人達。ああ、いつだって私はその目が怖い。
噂の鏡夜、と聞かされるたび何度この体が石のように硬直し息詰まったか。それでも沈黙を通す訳にもいかず声を掛けてきた相手の表情を伺いながらあの、と口ずさむと相手は納得した様子で話を続けた。

 

「ああ、場所が分からなかったのか。俺と同じチームだ。こっちに来い」
「は、はいっす…」
「鏡夜はタンクなんだろ。死ぬ気でキーを守ってくれよ」

 

ほら、また自身の顔が引きつるのが分かる。
今すぐにでも逃げ出したい衝動を無理矢理抑えながら同じチームとなった方角へ足を踏み入れていく。

 

戦闘解析システム。
私が仮想空間に訪れたのはつい最近で、この世界に関しての知識はまだ浅い。けれど何度か戦闘解析を繰り返していく内要領の悪い私でも確信を抱く事があった。
この世界は常にヒーローとして生死を繰り返す場所なのだと。

 

 

+++++

無機質な声が平然と戦闘の終わりを告げる。
切り傷となった腕が痛み呼吸が乱れるのを必死に抑えている中、同じチームだった一人が大声で歓喜する。

 

「よっしゃ、勝ち!いやー死んで能力解放するタンクとか初めて見たわ、おもしれ」

 

またチーム一緒になったら頼むわ。
もう一人も勝利した事に喜び悪気無く放たれるその言葉は私にとって十分刃となるものだった。終えたばかりだというのに再度静かに迫り来る恐怖に身体が震える。
真っ青になっているだろう私の様子に気付かず笑って次の作戦を練っていた同チームの一人がふと、こちらに向かって来る人物の姿が視界に入る。

 

「うわ……次の対戦相手あいつかよ…しかもこっちに来る」
「、あいつ…?」
「蛇目だよ。あいつと戦うとろくな事ねえんだ」

 

蛇目と呼ばれた彼を見た二人は心底嫌そうな顔をしていて、思わず私もそちらへと視線を向ける。
さらさらと柔らかい白髪を揺らし、私達の目の前まで来ると彼は無表情で

 

「赤チームのセンターは僕になりました。蛇目です。宜しくお願いします」

 

と、丁寧に頭を下げてきた。数秒後顔を上げた彼と目が合い私は動けなくなる。
赤。朱。紅。
吸い込まれるそのあかい瞳に私は何故か釘付けになり、言葉を失った。

 

「早く自分のチームに戻れよ、お前の挨拶なんて要らないっての」

 

気味悪い目。黙って眺めていた私の代わりに煽り含めた言葉を彼に聞こえるよう吐き捨てる同チームの声が耳に届き、瞬間私は痺れていた唇からほろりと


 

「―――綺麗な、あかい目だと思うっす、よ…」


 

そう答えていた。
戦闘の余韻で震えていたとは思えないほどあまりにも自然に呟いた私の言葉。周りの人達は理解し難いといった表情で私を睨み、対象の蛇目くんはあの無表情な顔から僅かに驚いた様子でこちらを見つめてくる。

 

「は?頭いかれてんのか?こいつの目を見たら石化されんだぞ」
「あー…放っておこうぜ、関わる必要無いって」
「…チッ、もう次の試合始まるじゃねえか。トロトロすんな!」
「あ、」

酷く苛ついた様子で同チームの一人が私の腕を引っ張り、次の対戦場所へと連れて行かれる。蛇目くんもしばらくこちらを見ていたが、やがて私達から視線を外すと反対の赤いステージへと背を向けた。
 

彼は私の事を知っているのだろうか。
切れ味のよさげな日本刀を背に二刀差していた為、彼は恐らくアタッカーだ。次の試合私は彼の元へ向かい、近くのポータルを制圧しなければならない。それが私の能力であり、チームが望んでいる私の役割なのだから。

 

(…また、……痛いの、嫌だ…な…)

 

じくじくと前回負った切り傷が自然治癒していく中、治まっていた手足がまた力無く震えた。

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