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本編SECOND/ライルカ③交渉編

なき

「彼が噂のスパイスくんか?」


N

「まあそんなところだ」


仮面の人物の背後からひょこ、と姿を現したのは黒髪ロン毛の少女。彼女はレオンくんを見て心なしかウキウキしている。

仮面はへらりと笑みを浮かべたまま肩をすくませる。


N

「シャインマスカットの妖精のネタバレかもな」


レオン

「はぁ、スパイス?申し訳ないですけど、此処にあるのは精々カツ丼にかける調味料くらいですよ………カツ丼…?」


仮面の人物の声を聞き、ふと頭にとある記憶が蘇る。


レオン

「…………まさか貴方……カツ丼タダ食い男ですか?……そうですか…しばらく見ないと思っていたら、そんな姿に…」


N

「お陰様で」


なき

「神様がタダ食いしてたのかあ」


N

「美味かったぜ。きみが奢ってくれたカツ丼」


なき

「良かったな、ええと…カツ丼くん?美味かったらしいぞ」


変なところに感心したなきや訝しげに問うレオンくんの態度には気にしない様子であたかも自分の部屋のような感覚で室内に入っていく。


N

「まあ上がっていきなよ」


なき

「お邪魔しまーす!」


レオン

「神様?なるほど、タダ食いを納得させるための新手の詐欺ですか。残念ながら…私は無宗教ですので…」


そう軽口を叩きながら、扉を潜ろうとする二人の腕をがっしりと掴む。


レオン

「ああ失礼、応接室は其方ではありませんので。ご案内致しますね」


そう伝え、客人二人の手を引くように応接室の方へと歩みを進めた。


なき

「おおっ?」


N

「おっと失礼」


腕を掴まれた二人はレオンくんの案内に抵抗する事無くそのまま誘導される。


なき

「敵に押され気味って聞いてたけど案外のんびりしてんだな。あ、茶菓子ある?」


レオン

「すみませんね、先に仰ってくれていればとても美味しいお菓子を準備出来たのですが」


二人を連れ、応接室の扉を開ける。

室内には上質なソファが背の低いテーブルを挟んで向かい合わせになるように置かれていた。


レオン

「……さて、要件の前に御二方に自己紹介でもしていただきましょうか。貴方方は私のことをご存知なようですからね。一方的なのはフェアじゃないと思いません?」


なき

「はは!それじゃ次来た時に美味い茶菓子食わせてくれよ」


そう言って案内されたソファにNと共に腰掛け、彼女は元気よく淡々と話し始める。


なき

「おう、それもそうだな。オレはなき。なき・ヴァンベリー。よろしくなカツ丼くん」


「俺の事はマスカットでも何でも好きに呼んでくれて構わないよ」


なき

「言った方が良いんじゃないか?一応増援のつもりで来てんだし。オレが不老不死でこっちがオレを召喚した神。OK?」


「わお。アバウトだな」


レオン

「はぁ、増援ですか。お気遣いありがとうございます〜!別に頼んでいないのですがね!」


レオンは心の中で溜息をついた。どうして別世界から次々と入り込んでくるのか。ラララさん、繋いでしまった貴方のせいですよ。


レオン

「それで?私に干渉したのには理由があるのでしょう?なんでも良いですけど要件は手短にお願いしますね。見ての通り、忙しいので……」


レオンはわざとらしく、困り顔で溜息をついてみせた。


なき

「だってさ。オレもさっさと済ませたいな〜」


N

「じゃあ要望通り手短に話そうか」


ニコリと軽い笑みを浮かべたのち淡々と述べる。


N

「きみの上司に用がある。ファラグからの交渉の話だ。連れてきてくれる?スパイくん」


レオン

「上司?フレア総統…ならわざわざ私に干渉しないでしょうね。となると、ライムですか」


これが後輩相手なら、あの得体の知れぬ神に合わせることを躊躇ったかもしれない。しかし上となれば話は別だ。いつもこき使ってくれてるお礼をたっぷりとせねば。


レオン

「わかりました。すぐに呼んできますので、お二人はここで立ち上がらずにお待ちくださいね」


N

「…ラララとは上手くやってるか?あの時から変わっていないのなら、俺がきみに頼る理由はそこにある」


席を立つレオンくんへ声を掛ける。あの時、というのは世界滅亡時の事を示しているのだろう。

Nのいつになく静かで穏やかな声になきも僅かに目を丸くさせる。


N

「Leon・Crovis。きみに幸多からんことを」


レオン

「はぁ…………お気遣いありがとうございます」


扉をくぐろうとしたレオンは、少し目を細めてその人物を見ると…すぐ様貼り付けたような笑みに切り替え礼を述べる。


レオンの恋人は自分の生まれた世界に色々思うことがある様であったが、このように彼を祝福する神もいるのか…そんなことを考えながら、レオンは上司の控える部屋へと足を運んだ。


なき

「……珍しいな?」


N

「さて。何の話やら」


テーブルの上に置かれた花瓶を眺めながらぽつりと呟くなきにNはいつも通りの口調で答える。

そのまま二人は軽い雑談を交わしながら上司の到着を待つ。





コンコン、と軽いノックを二つ。


レオン

「ライム?クローヴィスです」


ライム

「…クローヴィス?お前、仕事はどうしたんです」


レオンの直属の上司であり、UNIONの監督者に当たるライムは手元の書類から顰めた顔を上げた。


レオン

「貴方に来客が。何も異界の"神"らしいんですよ」


ライム

「はぁ?遂に頭がイカレたんで……ちょっと。何するんですか…!」


レオンはこの腰の重い上司を動かす方法を熟知していた。それは物理的に引っ張り出すことだ。

レオンはそのまま彼をズルズルと引き摺り元いた部屋へと足を進めた。




続く…

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