本編FIRST/レオララ⑧テロ編
- reisetu
- 2月8日
- 読了時間: 12分
更新日:6月6日
ラララ
「………ん、……?」
部屋に入るなりシャワーを浴びた後ベッドに直行しそのまま爆睡してしまっていたラララは僅かに窓から漏れ出す音に気付き重たい体を起こす。ベッドの隣にある小棚の上に置いてある時計の時刻を確認すると深夜を回っていた。
ラララ
「ナンの音ダ……?夜ぐらい静かに寝かせ───」
ドォ ン!!
ラララ
「…………。ふっざけんなヨ……なんなんだこの街ハ!!」
外で爆発テロが起きている事を察したラララはブチ切れながら変身術を己に掛け再びリアンへと姿を変える。
ラララ
(避難場所確認したいし一旦部屋から出るカ……)
廊下からも悲鳴が聞こえ始めた為諦めて渋々と扉の鍵を開け部屋から出る。
アルバート
「逃げて…逃げてください…!…あぁ…ちょっと、その、荷物はいいから…!…早く外に避難を…っ!」
同時刻。爆音を聞き、日々の救助隊としての訓練のおかげでいち早く飛び起きたアルバートは何事かと廊下で騒ぐ人々の誘導を試みていた。
ふと、その視界の片隅に長い髪が映る。彼らと同じく、騒ぎを聞き付け部屋から出てきた宿泊客の1人だろう。
アルバート
「ええと、そこの貴方も…避難通路から早く下へ…!…あ、髪は結んだ方が良いかも…炎が燃え移ったり引っかかったりしたら危ないし…あ、いやでも結ぶ紐とかゴムが今手元にあればだけど…無いなら引き返さないでそのまま避難を……」
リアン
(コイツは確か…トトだったカ?あの警官達とは一緒じゃないみたいですけど…極力関わりは避けたいのでさっさとお暇しまショ)
「…はい、どうか貴方もお気を付けて」
指示通り上着のポケットからシュシュを取り出し1つ結びにした後ペコリと頭を下げ皆が走る避難通路へと向かう。
アルバート
「………ん?…待って、何か音が…」
プシューっと何かが抜けるような散るような音にアルバートが首を傾げた…と同時に、更なる爆音が鳴り響く。
うわっと思わず声を上げ構えるも─────視界が晴れ目を開けた時には、先程まで避難通路の先に繋がっていた階段は熱で溶け、跡形もなく消え去っていた。
リアン
「……!」
脱出口が突如消滅した事により人々の不安の声が酷くなり反対方向へ足をもつれさせながら逃げようとする。廊下は然程狭くはないが焦った人達は我先にと人を押し退ける。ラララはその流れに巻き込まれ肩がぶつかり端へと追いやられた。煙の量も徐々に増え、火も範囲も広がり続けている。
やや不快による顰め面でトトくんへと声を掛けた。
リアン
「…救助隊さん、他に突破口はありますか?このままでは、」
アルバート
「……突破口………非常階段は廊下の両端にあるから反対に向かうしか無い…と思う。…ただ、あっちはあっちで近い部屋の人達で混雑してるだろうし……ってうわ、ちょっと、あの!押し合わないでゆっくり動いてって…!」
アルバートは男の問に答えようとするも、慌てた避難者の群れが反対の非常階段へ向かった為、どうにか落ち着くよう叫んだ。けれども効果は薄く、アルバートとその髪の長い男性を残して彼らは全員反対側の非常階段の方へと向かって行った。
アルバート
「………えっと…あとは……窓とか?…溶けてたら危ないから、降りるなら俺と一緒に…だけど…」
リアン
「反対側からの煙も凄いですし既に火が回っているのでは…、いえ、なんでもないです」
緊急性によりついラララ本人寄りで話してしまっていた事に途中で気付き首を横に振りリアンとして再び立ち振る舞う。身長も今は彼よりも僅かに低めに設定している為誘導もしやすいだろう。不安な声色でトトくんへ話す。
リアン
「窓からはちょっと怖いです…救助隊さんと一緒ならなんとかなりそうですが他の方々を置いていくわけにもいきませんし…」
アルバート
「…いや、あっちにはレオンがいるから火の手は消せると思うんだ。他のメンバーも待機してるし。だけど…その、人数的に一度の脱出は厳しい、と思う。それでもし、窓ガラスや窓枠が溶けて開けられなくなった場合…一酸化炭素中毒の可能性も増すから…」
アルバートは窓を確認し、今の状態でとりあえず開けることが出来ることを確認した。
アルバート
「うん…大丈夫だと思う。その、俺は一度下に降りなきゃだし、ついで…みたいな?どちらにせよ、ここから下ろすとなれば1人ずつじゃなきゃ難しいし…」
リアン
(ゲ。アイツがいるのカ。まあ救助隊メンバーみたいですし当たり前なんですけど…ここはこの人について行くかナ)
頼りなさ気な様子だったが一応筋が通っている意見にラララは素直に頷きトトくんの近くまで歩み寄る。
リアン
「そう…ですか。分かりました。お手数おかけします」
アルバート
「う、うん…じゃあその……この窓枠に金具をひっかけてロープで降りるから、お前は俺の肩に捕まって…」
アルバートは窓枠が溶けていないことを確認し、金属製のフックを引っ掛けロープを吊るす。そして、青年に背を向けるようにしゃがんだ。
アルバート
「乗って。あっ、その…身長的に地上だと足が下に着いちゃうかもしれないけど…空中では大丈夫だから…!」
リアン
「あの…助けていただいてる身ですしそこまで気になさらなくて大丈夫ですよ。…こう、ですか?」
彼の細かな気遣いに内心若干呆れながらもトトくんの指示通り肩に捕まる。チラリと周囲を見渡すと反対方向へ走っていった人達はこちらの動きには気付いていないようだった。煙の量も先程よりもマシになっている辺り警察がなんとかしているのだろう。
アルバート
「あっ、うん…そんな感じ…あとは力抜いて、俺に任せてくれれば良いからさ…」
アルバートは小柄な身体で自分より背の高い青年をひょいと背負うと、鍛えられた体感でロープに捕まりロープの足掛けに爪先を掛ける。
そのまま青年の捕まる力が緩んでいないことを確認すると、ゆっくりと手と足を滑らせ下降し、地面まで残り数十センチのところで手を離し着地した。
アルバート
「よいしよっ…と。…うん、着いたよ。えっと…怪我とか、大丈夫そうか…?」
リアン
「だ…大丈夫です!ありがとうございます、助かりました。救助隊さんは力持ちなのですね」
背負われた事に少々驚きと関心を持ちつつも到着後ペコリと再度頭を下げニコリと微笑みながら御礼の言葉を述べる。辺りを見渡すとまだテロ組織が動いているのか近くで爆発音が聞こえる。リアンは気付かれないよう小声でトトくんへ話し掛けた。
リアン
「他の方々も救出しに行くのでしょう?どうかお気をつけて。私は火が来ない場所で隠れてますね」
アルバート
「あ、うん…仕事だから気にしないで……」
礼に対してそんなことを返していたが、そそくさと離れようとする青年を慌てて呼び止めた。
アルバート
「ああ、待って…!まだあいつらも暴れてるし、燃えて爛れた建物が崩れてきても危ないから…救助した人たちには救助隊のキャンプで待ってて貰ってるんだ。その、安否確認したいものとかあるかもしれないけど、一度俺に着いてきてくれると…」
リアン
(エエ…まあ確かに今断っても怪しまれるでしょうし素直に従った方がいいカ…)
「あ、キャンプがあるんですか?す…すみません先走っちゃって。…分かりました。引き続きお世話になります」
呼び止められ一瞬考えるもののトトくんの判断に任せる事にして再び彼の近くまで来る。
アルバート
「う、うん…助かる。えっと…心配しなくても大丈夫だよ、キャンプはちゃんと安全だし、アフターケアとかもついてるし…」
アルバートは青年を励まそうと、しどろもどろになりながら言葉を紡ぐ。
少し歩いたところで、ホテルから少し離れた川沿いに並べられたカラフルなテントを指さした。
アルバート
「えっと、あそこがキャンプ。お前より先に避難した人とかもいるからさ。ちょっと狭いかもしれないけど、ホテルの付近よりは安全だから…」
リアン
「ありがとうございます。…確かに人がいますね。よかった」
テントにいる避難民達は不安げな様子で燃え盛るホテルを見上げているようだがひとまずは此処で休息が取れそうだと内心安堵する。
リアン
「テントに救助隊さん達はいないみたいですね…まだ中で誘導中でしょうか」
民1
「救助隊だって?すみませんそこのお方、奥に怪我人がいるんだ!どうか治療を…」
すると一部のテントの中から若い男性が青色のテントを指さしながらトトくんへ慌てた表情で声を掛けてきた。
アルバート
「怪我人?…あ、あれ…エステル達はどこに……あー…もしかして逆のテントに…?」
アルバートは治療に長けた仲間の顔を思い浮かべるが、仮に彼女がこの場にいるのなら既に怪我人は治療されているはずである。つまり、この状況が示すのは、この場所に治療を行える人物がいない…という事実であった。
アルバート
「俺のEM能力は治療に携わるものじゃないけど…包帯はあるし、応急手当くらいならなんとか……」
民1
「爆撃をまともに受けちまって包帯だけじゃ出血が止まらないんだよ!ほらっ、」
男性がトトくんの腕を引っ張り患者の元へ連れて行く。リアンは黙って二人の後を追い共に青色のテントの中へ入ると、腹部から出血し青白く弱々しい一人の子どもが母親らしき人物に看病されている光景を目の当たりにした。
声を上げる元気もない子どもの様子に眉を寄せリアンはトトくんへ静かに問いかける。
リアン
「……あの、そのエステルさんと連絡は取れますか?一刻を争うと思われますが…」
アルバート
「…もう一つ避難用テントがあってさ……エステルは多分そっちで他の怪我人の治療してる……」
黄色タグ以上はそっちに送ってって言ったんだけどな…とアルバートはボヤく。が、そんなことをしていても仕方ないと仕切り直す。
アルバート
「とりあえず…その、止血は心臓に近い位置を縛ってください。タオルならあるんで、これ使って…。えっと…誰かこの中に治療系のEM能力持ってる方、いませんか…!」
民1
「此処にいる避難民には聞いたさ!でも治療系の能力者は普通はそうそう見かけないって聞いて…」
リアン
(止血じゃ間に合わないナ)
呼吸もままならない子どもの様子にリアンは小さくため息を付き、髪をポニテからお団子ヘアーへと結び直し救助隊より一歩前に出る。
リアン
(魔力を早く戻そうと思って寝る前に光属性の魔力が込められたドリンクを服用してたワケですガ…まさかここで使う羽目になるとハ)
「タオルは体を拭く用に使用してください。この出血では治しても自力で体温調整をするのはしばらく無理ですから、貴方は上着などの毛布になるものの用意をお願いします」
民1
「えっ…、おいアンタ何を───」
リアン
「救助隊さんは水分補給が出来る飲料を。こちらは何とかするので無理ならまだ残ってる人達の救助に向かってください。いいですね!」
これまでの大人しかった態度から一変しザッと口頭で指示を出した後に子どもの前まで来るとしゃがみ込み手をかざし瞳を閉じて脳内で詠唱を唱え始める。
(『あなたの解れた糸を治しましょう
あなたの開いた体を閉ざしましょう』)
ブレイクハードリカバリー
-Break hard recovery-
リアンの手元から温かでいてパワーを感じさせる光の粒が満ち溢れる。
アルバート
(………この人、能力者だった…?……いやでも、これは………………)
アルバートは見たことの無い輝きと、彼が直前に唱えた言葉で一瞬身体を強ばらせる。しかし、要救助者の傷口がじわじわと塞がる様子に気がつく。
彼が怪我人に危害を加えるつもりでは無いことを理解すると、彼の指示通り臨時で組み立てられた机の下のBOXから、避難者に気休めとして渡していたペットボトルを数本抱えて男の元へと踵を返す。
軽くボトルのキャップをひねり空けると、もう一度閉めて近くの机に並べた。
アルバート
「……これ、ここに置いとくから」
視線だけ一度トトくんに向けた後リアンは再び子どもの治療に専念する。出血が止まり傷口が塞がっていく様子を見て男性は唖然としながらトトくんが持ってきたペットボトルに気付き慌ててペコリと頭を下げる。
リアン
「……深呼吸、出来ますか?もう大丈夫ですよ」
子ども
「………?あれ……痛くない…」
リアン
「よく頑張りましたね」
傷口も消滅し苦しげな表情が取り除かれ整った呼吸をし始めた子どもの頭を穏やかな様子で撫でた後、礼を述べる男へ水分等の指示をいくつかしてトトくんの元へ戻る。
リアン
「補給、ありがとうございました。私も喉が渇いたのでいただいても?」
アルバート
「えっと、どうぞ……………その、お前の今のって…エレメント能力…?」
アルバートは首を傾げる。治療系のEM能力は救助隊の医療班の者も持っているが、能力者の中では貴重な部類に入る。能力自体が貴重な上に、扱うのも難しいためだ。
アルバート
「何はともあれ…か………えっと、ありがとう。助かった。…お前の言う通り、こっちのテントも重傷者用じゃないとはいえ医療班がいるはずなんだけど…もう片方の避難所で何かあったのかもしれない…」
リアン
「…はい。びっくりさせちゃいました?」
リアンは悟られないよう照れ隠しのようにはにかみながらもトトくんのお礼を言葉を受け取る。
リアン
「こちらこそ助けていただきありがとうございました。…その、こちらの怪我人はお子さん以外は今のところいないみたいですし、救助隊さんはもう片方の避難所の様子を見てきても…」
そう言ってあ、と声を上げ申し訳無さそうに続ける。
リアン
「でもまだ救助されてない方々もいますよね…どうされますか?」
アルバート
「ううん…俺がテントに向かっても治療は出来ないしな…敵に襲われたとかならともかく、このパターンは怪我人が多くて手が回ってないような気がする…」
仮にテントが襲われたのであれば何かしらの報告が来るはずである。何も来ない…ということは単純に忙しいのだろうとアルバートは予測した。
アルバート
「…俺は救助活動に戻るよ。…………そ、その、悪いんだけどさ…テントまでは案内するから、治療を手伝って貰えたりしないか…?…もちろん働いてくれた分の給与は俺から渡すし、アフターケアとかで…なにか手伝えることあれば、何でもするから…」
リアン
「え…わ、私がですか…?」
トトくんの提案にリアンは目を丸くし内心迷う。
リアン
(今のわたくしに必要なのは情報とお金ですシ報酬付きなのは確かに魅力的ですが……あの胡散臭い警察と関わりある者と絡んで目を付けられるのも面倒ダ)
「すみません…私今の治療で大分疲れていまして、お役に立てるかどうか…。足を引っ張るわけにもいきませんし…」
そしてリアンはいかにもお力になるのは難しいといった申し訳無さそうな態度でトトくんへ示す。あくまで一般市民のように弱々しく。
アルバート
「う、確かにそれはそうか……まぁ、あっちの状況もわからないのに着いてきてもらうわけにも行かないしな……さすがに壊滅してる…だなんてことは、ないと思うけど…」
アルバートは歯切り悪そうに、そうボヤく。彼自身も救助対象であったことに変わりは無いのだから、まずは彼の命の安全が最優先だろうと判断した。
アルバート
「む、無理言ってごめん…。じゃあ俺は戻るけど…しばらくしたらユニオンがお前達を危険区域から出すために迎えに来ると思うから…。しばらくはここでじっとしてて貰えると助かる」
そう言って、アルバートはテントを後に走り去った。
リアン
(…じっとしてて、ネ。せっかく温存した魔力も尽きかけですし生憎これ以上関わるのは避けたいのデ撤退させていただきますヨ)
トトくんが立ち去ったのを確認した後周りの状況を観察しつつ隙を見てその場から離れ、闇市場と呼ばれる場所へ向かった。