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本編FIRST/レオララ➃レオンサイド編

更新日:3 時間前



──────ガチャリ。


重たい戸の無機質な音が、しんと静まり返った部屋に響く。


数カ月前であれば…彼と共同生活を送っていたあの部屋であれば、"おかえり"の一言が帰ってくることもあった。寂しいと思うかと聞かれれば、レオンはかならず首を横に振った。当たり前だ。自ら望んで出てきたのだから。もうあの男の忌々しい"おかえり"なんぞ、聞きたくも無いのだ。


静かな空間は落ち着いたはずなのに、なんだか今日は落ち着かなくてテレビを着ける。捨て犬のドキュメンタリーが流れる。犬や猫でも飼えば、また何か違ったことでも起きるだろうか。


レオン

(………それにしても、)


レオンは戸棚にしまってあった小瓶を手に取る。カランコロン、と瓶の中で小さく揺れるのは2色の飴玉。少し前、あの商人から購入した効き目のあるんだかないんだかわからない品物である。彼はもう少し試してみるべきだ…などと言っていたが、何せ売りつけた本人の言葉だ。信用するに値しないのはわかりきっている。しかし…


レオン

(彼からは悪意を感じなかった……)


勿論、商人全てが悪だと言う訳では無いが…少なからず"金を得る"目的のために何かしらの悪徳な方法を使う商人というのを、レオンは数多く見てきた。そしてその方法を取る事について、少なからず通常の感覚の持ち主であれば"悪"であることを認識している。彼らは隠し通しているつもりだろうが、矢張り顔やら声やら動作やら言い回しやら…どこかしらに、ソレに対する罪悪感が滲み出ていたりするのだ。レオンがこれに気がつくのは、単に彼が"悪"という存在に対して人一倍敏感だったからかもしれないが。


しかし、かの商人からはそんな悪意すら感じ取れなかった。


レオン

(そもそも、二重能力者なのに何故商人なんてやってるんでしょうか?)


二重能力者はこの世界では非常に貴重な存在、この力を持つだけで多くの大企業から引っ張りだこになるのが現実である。


レオン

(それに……あの外見。頭の角は飾りか?服装も見た事の無い形状、それに跡地の生き残りと言っていましたが…少数民族であれどユニオンが把握していない、だなんてことは……)


悪意のない商人、あまりにも現実離れした外見や風変わりな発言……

どんな些細な気掛かりでも、大陸の平和を守るものとして放っておくことは出来ない。

万一、"デストロイヤー"の使者であったら…それこそ大問題である。デストロイヤー本人に尋ねるか?それとも不死者に注意を促すか?


レオン

「暫くは要注意、ですかね…」


飴を戸棚に入れる。テレビでは、とある飲食店の特集をLIVE配信で流されていた。

そこに見覚えのある髪色が映っていることに、彼は気づくことは無かった。










ーーーーーーーーーー


レオン

「──────全く。執拗い男は嫌われますよ?ま、貴方の事を好きな物好きなんてそうそういないでしょうがね」


軍帽が宙に舞う。黒いマントをはためかせ、手に馴染んだライフルを背負ったレオンは、商店街の一棟から軽々と飛び降りた。

地面に倒れ込む男達の周囲に散らばる血液は、まるで意志を持ったかのように集まると1つの真っ赤な水玉となり、レオンの手元で不気味に揺らめいている。

それらを破裂させると、辺りには矢の雨のように鋭く尖った"赤"が降り注いだ。


アルバート

「レオン…その、無闇に殺すのは」


レオン

「五月蝿いんですよ能無し。そうやって無駄な慈悲を与えて、生むのは残党の復讐心だけです。いい加減現実を見ては?自己満のヒーロー気取りもいい加減にしなさい」


いかにも気弱そうな表情を浮かべる青年は、レオンの言葉に俯いて黙り込む。彼らの後ろから更なる足音が聞こえる。


テオドシア

「……おまえ、またトトのこといじめてるな?」


エステル

「て、テオくん…!……あ、ええと……」


白髪の少年は、勇敢にもレオンに食ってかかる。そんな少年を桃色の長い髪を持つ少女が慌てて止める。


エステル

「テオくん!お、落ち着いてください…!」


テオドシア

「だってエステル、あいついつもトトのこといじめるんだ!それだけじゃない、このまわりのひとたちだって」


少年は辺りにゴミのように転がる死体を見渡す。


テオドシア

「みんなころしたんだ!」


エステル

「………そ、そうですが……えっと、レオンさん…」


少女は悲しげな瞳で、レオンの瞳を覗き込んだ。


エステル

「その…貴方の仰ることはわかります。ですが、救助隊には"無意味に殺してはならない"というルールが…」


レオン

「………存じ上げておりますよ。ですが、悪の根源は根こそぎ取っておかなければ、真なる安全というのは一向に来ないのです」


エステル

「レオンさん………」


心優しき少女は、困ったように立ち尽くしていた。そんな雰囲気をぶち壊すかのように、明るい声が響く。


ラーラ

「みんな無事ーっ!?お!無事そうじゃーん!こっちは終わった感じ?……ってあれ、どしたの?まーたトトくんは怒られたの?もー!元気出してよぉー!ほら!早く帰って今日のお楽しみのハンバーグ食べるんでしょ!?」


派手な装いの少女はアルバートの肩を組むとそのまま前後にグラグラと揺らす。これは彼女なりの励まし方なのだろう。

アルバートはそんな彼女の明るい様子に少し元気を取り戻したのか、安堵の笑みを口元に浮かべた。


アルバート

「……うん……そうだね」


ラーラ

「ほらテオくんも!食べるんでしょぉ?早く来ないとあたしっちがぜーんぶ食べちゃうよ?」


テオドシア

「そ、それはだめだって!」


テオドシアも彼女の発言に食いつく。


ラーラ

「じゃあほら!どっちが最初に食堂に辿り着くか競走ね?レッツラゴー!!!」


テオドシア

「あっひきょうだよラーラ!」


そう言って2人は帰路を駆けて行った。


エステル

「えっと…レオンさん、お怪我は大丈夫でしたか?」


レオン

「………大丈夫ですよ、お気遣いいただきありがとうございます」


そうしてまた、辺りしんと静まり返った。


アルバート

「……れ、レオン。そのさ…」


静かになったその場所で、再びアルバートがおずおずと口を開く。


アルバート

「……俺はお前のことを仲間だと思ってるし、その、お前の中の正義と救助隊の正義の形が合わないこともわかってる。それでもお前が…」


レオン

「黙れ。誰も貴方と理解し合おうとなんて思ってませんよ。私が言いたいのは」


レオンは凍てつくような視線をアルバートに向けた。


レオン

「貴方のそれは正義でもなんでもない。単なる正義のヒーローに憧れる子供が抱いた愚かな間違いなんですよ。

貴方は、孤児院にいた頃から何一つ変わっていないんですね」


アルバートは再び俯いて黙り込む。そして、


アルバート

「……行こう、エステル」


エステル

「…えっ?あ、はい…!」


アルバートは、少しだけこちらを振り返る。

その表情に"心配"が浮かんでいたことに、レオンの中には怒りが湧いた。


レオン

(自分のことすらまともに管理できないくせに他人のことは一丁前に気にする、そういうところが心底気持ち悪いんですよ…!)


そうだ。彼は何時だってそうだ。

他人を救いたいと言いながら、自身は過去に背負ったんだか知らない"責任"とやらから逃げるために死の道を選ぼうとすることすらある。

仲間が大事?それならば、仲間が傷つくようなことをするな。それがレオンの主張であった。

優しい仲間たちは彼のことを"精神的に弱っているから自分たちが支えてあげる必要がある"と思っているらしい。別に精神疾患があるなら構わないが、それならば他人を救おうとするなという話だ。


矛盾にも程があるだろう。

仲間を傷つけたくないといいながら仲間に心配と迷惑を掛けるような行動を自ら行い、他者を救うと言う割には最も理解出来ているはずの自分のことすら救えない。


こんな人間に、救世主になんてなれないと思っていた。

そしてそれと同時に、そんな彼のことをただ心配して肯定して…何も変える気のない仲間にも腹立っていたのだ。


レオン

「…………で、貴方も此方側なのでしょう?」


ウェン

「……………」


瓦礫の影に身を隠していた、大きな棺桶を片肩に背負う青年が姿を現した。


レオン

「貴方は怒られないのに私は怒られるだなんて、不平等も極まりないと思いません?リーダーウェン?」


ウェン

「…お前が無駄に派手に殺るからだろう」


ウェンは転がっている死体の一つの頭を爪先で突っつく。そして頭蓋骨が陥没してるな、お前の力でこんなことにはなるのか?と首を傾げた。


レオン

「知りませんよ。慌ててどっかから落ちたんじゃないです?それよりも。どう思われますか?」


ウェン

「不平等の件か?どうも何も、罪もバレなきゃ罪じゃないんだぞ」


レオン

「貴方みたいな救助隊の癌は早々に死ぬのが世界の為かと」


白い目を向けるレオンに対し、ウェンは解せないんだぞと首を傾げた。呑気で羨ましいことだ。


レオン

「それでは私はユニオンの方に戻らなければならないので」


ウェン

「…クローヴィス」


立ち去ろうとするレオンを、ウェンは呼び止める。


ウェン

「守る為に奪うのは、正義だと思うか?」


レオン

「………………」


黙り込んで立ち止まるレオンの肩に、ウェンは手を置いた。


ウェン

「俺は、お前が"レオン"のままでいる間はお前のことを守ると約束しよう。但し─────

お前がクソ野郎デストロイヤーに呑み込まれた暁には、俺はお前を殺すだろう」


そんな話は今更だ。自分が逆の立場であっても彼と同じ選択肢を選んでいただろう。あの脳内お花畑な炎使いはそうではないだろうが。


ウェン

「まぁそこまで案ずることは無いんだぞ。お前にはこの後、良いことが起きると言っていたんだ」


レオン

「……はぁ?誰が?」


ウェン

「猫ちゃんだぞ」


レオンは顔を歪めた。アルバートとは別の面で、此奴と話していると頭が痛くなってくるのだ。


ウェン

「"素敵な出会いが訪れるにゃん"」


レオン

「帰っていいですか?さようなら」


レオンは再び立ち去ろうとした。


ウェン

「ふむ?ちょっと待て」


レオン

「あー五月蝿いんですよ!今度はなんですか!?」


ウェン

「怒りながら律儀に止まるのか、器用だな。ところでその血塗れの服装で出社するのは少々問題があるかと思うんだぞ」


レオン

「…………………………」


レオンは盛大なため息をついた。イライラとは最大限までやってくると何も出なくなるのか。この時、レオンは学んだ。


ウェン

「やっぱり派手に殺すのは良くないのでは?」


レオン

「うっっるさいですねこのボンクラ!」


前言撤回、レオンからは渾身のパンチが出た。



そうして騒ぎ立る声は帰路を辿っているようで、段々と小さくなっていった。

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