本編SECOND/ファラデス➀Prologueデストロイヤーサイド編
- reisetu
- 1月4日
- 読了時間: 7分
更新日:2 時間前
かの神は言った。
"人の子"とは罪であると。
(彼らが命懸けで勝ち取った未来など、誰一人知りやしない)
愚かに思う。同時に、あの神の言うことだって理解が出来る。
人とは愚かだ。
自ずから未来を潰そうとするのだから。
(それでも、貴方たちは守りたかった。愚かな人々の未来を)
胸元に羽の形のバッジを輝かせた彼らは、堂々と言った。自分達は世界のために、人々の未来のために戦うと。
『困っている人がいるなら、手を差し伸べるのが救助隊なんだ。だから、世界の全ての人達が助けを求めているのなら──────
俺たちは、全員に手を差し伸べるよ』
背筋を伸ばした青年には、過去の弱々しい少年の面影は無かった。
(神を信じるか、人を信じるか──────)
二つの分かれ道。
破壊の使者デストロイヤーが選んだのは、
"人の子"となる道であった。
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「…………っ!?」
レオンは飛び起きた。それはもう、勢いよく飛び起きた。
嫌な予感がする。その予感というのは、例えば一度わかれた元カノが再び襲来してくるような──────
(……確かめなければ)
レオンは起き上がろうとするが、ふと腕に体温を感じる。
「…………?…………!」
そこには、愛しい恋人の綺麗な指がそっと添えられていた。
思わず笑みがこぼれ、写真に収めたい衝動に駆られるが今は緊急事態。救助隊としてもユニオンとしても自身の欲を優先させるようなことは許されない。
頭の中の欲望を振り払い、愛しき人を起こさぬよう、レオンは静かにベッドを抜け出した。
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外は心身共に温かさを感じられる自宅とは異なり、凍える風が吹き付ける。日の出も遅いこの時期は、辺りは深夜と言っても許されるほど真っ黒な影に包まれている。隊服には体温調節機能が設けられているが、視界から感じ取れる寒々しさを逃れることは出来ぬのだ。
レオンは白い息を吐きながら、小走りで本部に駆けつけた。
「あ、レオン」
「──────場所は特定出来ました?」
情報室に駆け込むと、既に着いていたアルバートがコンピュータを操作しながら何やら顔を顰めていた。
「いや…特定はできたけどさ……その、ここ」
レオンは彼の指す画面上のポイントに目を留める。
────── Forest of Baratヴェーダの森
「ここさ…確か、」
「……ええ。例の事件が起きた場所ですね。今は立ち入り禁止区域に指定されているはずですが─────」
──────奴は、明らかにこんな人気の無いであろう場所を選んで何をする気だ?
レオンの中の警戒心は、より一層深まった。
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鬱蒼とした木々は、夜の影を落し更に不気味さを増している。凍えるような風を受けてはざわざわと揺れ、影を揺らしては月明かりをぼやかした。
どんなに深い夜であろうが常に電灯で灯された街に慣れた者としては違和感を感じるが、夜の森というのはライトが必須だ。二人は懐中電灯で足元を照らしながら用心深く、闇の中へ足を踏み入れて行く。
黒と黄色で塗られた”KEEP OUT”のロープを潜り抜け、その中へと足を進める。
「仕方ないとはいえ…悪いことをしてる気分になるな……いや、実質悪いことではあるのか。仕方ないってだけで…」
「おや、いい子ちゃんには少々刺激的でしたか?」
「いや、別にそういうわけじゃ…」
軽口を叩けば気分も晴れるというもので。
そのまま歩みを続けていると、辺りの木々の様子がおかしい事に気がつく。
色を感じさせない真っ黒に焦げた木々、その独特の臭いが緑の香りをかき消している。
「………この辺りが、火災に…」
アルバートがぼそりと呟く。
かつてこの森に住んでいたという民族は、原因不明の大火事により絶滅してしまったという。しかし、事故後の調査によると発火の原因はおろか人々の焼死体すら見つからなかったという。
そんな不気味でおぞましい事件を気に、この場所は人々の中では心霊スポットとして名を広めると同時にユニオンの調査区域となり立ち入り禁止にされた。
しかし夜間であればこのように侵入は可能であるし、仮に何かあってもユニオン幹部のレオンがいれば言い訳はどうにでも着くのだ。幹部の証である手帳はしっかりポケットの中である。
そしてまた暫く進んだ後、
「…………此処、ですね」
「………………」
目的の場所に辿り着いた。
アルバートは警戒しているようで新品の大盾を構える。今までは軽装備で敵に殴りかかっていたこの男が、重たい盾を持ち運びながらじっとする様は中々に珍しいものに見えた。
──────と、その刹那
「おや、皆様お揃いでどうなさいましたか?」
「………っ、お前…!」
「……………はぁ…出やがりましたか、クソ野郎」
背後から聞こえる声は、そして視界に映るのは──────二人のよく知るものであった。
「こんにちは、良い夜ですね」
破壊の使者デストロイヤー。
それは大いなる天カミサマの使い魔であり──────かつて救助隊が世界を守るために命懸けで戦った天敵。
しかし、彼は実の姿を持っていなかったはずだ。
それなのに、それなのに?
「貴方…!何故私の姿で…!?」
「嗚呼、これですか」
デストロイヤーは微笑む。
「作ったのですよ。"反転の鏡"────これは移した者のエレメント能力の効果を反転させます。私の力は"破壊"クラッシュですから。これを反転させるとどうなるか、ご想像は着くのでは?」
「破壊の反対?それって…」
「ええ。つまり─────創成、生み出すことだと、貴方は言いたいのでしょう?」
「ご名答。無論、私が鏡を使ったのは私自身の身体を手に入れるためだけではありませんが」
「──────何をする気ですか」
警戒の色を滲ませるレオンに対し、デストロイヤーは微笑みを浮かべたまま応えた。
「ああ、何を警戒しているのかと思えば…ご安心を。あくまで貴方たちにとっても喜ばしいであろうことに使いましたので。それよりも─────」
デストロイヤーは浮かべていた笑みを消し、真剣な眼差しで二人を見据えた。
「…………」
「な、なんだよ」
「………いえ、お伝えしなければならないことがありまして。私が再び此処に来た理由です。
──────二人目のデストロイヤーが、誕生しました」
「は──────?」
「なっ………!?」
デストロイヤーの証言に、二人は驚くことしか出来なかった。
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「…………ということで、緊急会議だよ。みんな、夜中に集まってくれてありがとう」
「いいえ!お二人共、調査お疲れ様でした…!…ええと……それで……」
エステルが視線を向ける先には、デストロイヤーが座っている。少女と目が合うと、相変わらず綺麗な笑みを浮かべた。
「こんばんは」
「えっ?あ、はい!こんばんは…?」
「おいお前!エステルにへんなことするなよ!へんなことしたら…ビリビリだからな!」
「そうだそうだー!…っていうか、二人目のデストロイヤーが生まれたってことは、デストロっちはデストロイヤーをやめたの?」
「字面がややこしいですね…」
それぞれが好き勝手に喋り始め、相変わらずまとまりの無い状況にアルバートはひっそりとため息を着いた。
「そうですね、とりあえずは二人目のデストロイヤーのことについてを。まず、今の私は厳密に言えばデストロイヤーではありません。私は既に追放された身…故に、この世界を滅ぼす力は無い」
力が無い。ということは、彼の脅威性は既に失われていることか?レオンはそう考えたが、証拠がない限りは彼が此方を油断させるための発言である可能性も否めない。レオンは警戒を続けることにした。
「そして新たに生み出されたのが、第二のデストロイヤー…その名を、ルーイン」
「……ルーイン?」
「はい。彼女はそのように名乗っています」
本来、"デストロイヤー"というのは言うなれば役割であり種族のようなもの。とはいえ自身で異なる名前を名乗るというのは、すなわち名前を欲している…ということか?そうであれば、随分と人間に近しい感覚の持ち主なのだろうか?
「それで、そのルイちゃんがまたエデン大陸をドカーン!しに来るってこと?」
「……詳しい動向は掴めていませんが、恐らく予想通りかと」
えーやばいじゃん!ダイヤモンド級にやばいじゃん!と騒ぐ少女を他所に、アルバートは呟く。
「つまり今から対策しないと…」
「……そうですね。でないと……それの時の二の舞になりますよ」
「…おや?他人を指差しではならないのですよ、レオン」
「…な、黙りなさい!私の姿を模している癖に生意気なんですよ貴方!」
深い闇に、段々と光が差し込む頃になる。
夜が明けるまで、彼らは今後の対策について話し合っていた。
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朝の透き通った空気は、人の子としての現界に慣れぬデストロイヤーに冷たく突き刺さる。
はぁっ、と吐いた息は白く儚く、澄んだ空へと舞い上がっていく。
(これで、良かったんですよね)
"デストロイヤー"としての役割を放棄したことに後悔が全く無いのかと問われれば、素直に頷くことは出来ない。
それでも、彼はこの世界を愛してしまった。
愛してしまったのだから、手放せなくなってしまったのだから──────
「私が、今度は世界を、守ります」
この破壊の力で、貴方達の脅威を消し去りましょう。
「──────此処が"エデン大陸"…ですかな?─────なんと!素晴らしい!」
「──────えっ?」
空を見た。澄んだ青い空を。平和の証を。
そこには、確かにカミサマがいた。
彼の…この世界の運命を変える、特異点が
彼の元へ、降ってきた。