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本編FIRST/レオララ➀出会い編

  • reisetu
  • 2024年12月29日
  • 読了時間: 8分

更新日:4 時間前

ここは、知る人ぞ知る闇市。

裏の社会に片足を踏み入れた商人達が、表上は取り扱えない"貴重な商品"を取引する為の交流の場。

そんなこの場所に、場違いともいえる服装の青年が足を踏み入れていた。

軍帽により落ちる影で顔を覆ったその男は、レオン・クローヴィス。エデン大陸の私営警察、UNIONに所属する諜報員である。


警察が闇市に来る理由と言えば、それこそ不法取引や犯罪の取り締まりが一般的だが、彼は違った。

彼は、とある"薬"を探し求めてここへやって来たのだ。


ラララ

「寄ってらっしゃい見てらっしゃい!色とりどり揃えてありますヨ♪」


レオン

「─────そこの商売人の方。少々お話をよろしいでしょうか?貴方の販売されている商品…えぇ、その薬品です。それ、どうなさいましたか?」


エデン大陸のとある闇市場で違法じみた薬品を売りつける商人。

警察のレオンくんに注意され内心舌打ちしつつもごますりながら故障臭い笑顔で対応する。


ラララ

「とんでもない!わたくし困った人を助けるのが趣味でして。少しでもお役に立てる事が出来れば万々歳なのですよオ」


レオン

「おや、それはそれは。貴方様の健気な心を疑ってしまい申し訳ありません。それでは人助けが大好きな心優しい商人さんに伺いたいのですが…"安楽死の薬"は取り扱われておりますでしょうか?」


安楽死の薬の有無を聞かれたら意外そうな顔をする。


ラララ

「残念ながらそういった薬は(表向きは)取り扱ってないデス。というかそんなモン簡単に持ってたらそれこそ捕まっちゃいますヨ。…警察サンが安楽死をお望みで?こんなところにノコノコと訪れるのも珍しいとは思いましたけど」


レオン

「ふふ、そうですか?…貴方様のご期待を裏切ってしまうようで大変申し訳ないのですが…仕事で少々必要になりましてね。ああ、間違ってでも本部に連絡なぞ愚かな真似はしないように。その時は貴方様も共に、UNIONへ足を運んでいただくことになりますから」


レオンは仮設の棚に並ぶ色とりどりの商品を眺める。小瓶に詰められた薬品以外にも、目新しい宝石や見慣れないデザインの雑貨まで、様々なアイテムが揃っていた。


レオン

「貴方、この辺の人じゃないですよね?何処から来たんですか?」


ラララ

「ふうん?大変なんですねエ。ま、警察に目を付けられた時点でこの市場もそう長く持たないでしょうけド」


わざとらしくため息交じりで話す。死んだ目のレオンくんの様子には気付きそう。


ラララ

「いやんジロジロ見ちゃって。事情聴取でもなさるおつもりデ?わたくしただのゆく宛の無い旅人ですからどうぞお構いナク!」


訪ねられても初対面時はまともに答えてくれない。


レオン

「……別世界の力であれば、奴にも干渉できると思ったんですけどねぇ。私、そこそこの高給取りでして、めぼしいものがあれば幾らでも積んでも良いかと思っていたのですが…残念です」


商人の言葉を聞いたレオンは、安っぽい笑みを貼り付けながら懐から札束を飛び出しヒラヒラと見せびらかす。がめつい守銭奴な商人には金。そんなことを言っていたのは悪徳スレスレ商法で知られる彼の上司であったか。


ラララ

「いやいや瞳が綺麗なお客さん!冗談ですよお!この商人ラララに取り扱えないものはございません。どうぞどうぞ心ゆくまで見ていってくださいナ。今なら世にも珍しい(嘘)宝石一つをサービスしちゃいますヨ♡」


札束見せられたらコロッとさらに優しく甘く接してくれます。ペラペラ喋るしすり寄りが凄い。

更に言うとラララという名は商人用の偽名なので実際の所バレても困らないという罠。


レオン

「はぁ…どこの商人もホント代わり映えのない反応しますよ……そんなにこの紙切れが良いんでしょうか?難儀ですね、全く」


自身がまいた種に対し、まるで他人事のように答える。

しかし─────"商人"ばどいつもこいつも同じだとはいえ、彼からはこの大陸でよく目にするただがめついだけ商人とは異なる"何か"を感じ取っていた。


ここへ訪れた理由は別にあるとは言え、UNION警察としての日々が根付いたレオンはこうした事態を放っておくことが出来なかった。染み付いた癖で、無意識にも商人を観察するかのようにチラチラと眺める。


ラララ

「金の価値が分からないお子さ…お金は何にでも使えますからネ!」


ちらちら見てくるレオンくんにほんの僅かに目を細めてクスリと笑って茶化します。


ラララ

「お客さん?わたくしを見つめても何も買えませんヨ」


レオン

「おや、何にでも使えるとは随分とこの紙切れを狂信なさっているようで」


レオンは職業、そして立場上得られる給料は多い方だ。オマケに普段から職務にあけくれており使い道もない。

"この問題"が金を払って解決するというのであれば全財産であっても支払っているところだ。しかし、世の中の問題には金だけでは解決が出来ないものも多くある。社会的な問題を解決する立場としての、レオンの経験談である。


無論、この商人が知る常識ではどうだかはわからないが。


レオン

「まぁこの話は後ほど。それでは…安楽死の薬は良いので、自分の中に住み着いてる悪霊的なのを殺せる道具なんて、ありませんか?」


ラララ

「モチロン!物も名誉も時間も愛も全て、ネ」


レオンくんの問いには返答するものの探られている事に関してはあえて流してる。人差し指でしー、としながら首を傾げ笑う。


ラララ

「フム、悪霊ですカ。除霊ではなく完全に『殺す』事をお望みで?」


屋台のような店舗に並ぶ品々の中から『白と黒』の飴玉が入った小瓶を手に持ちレオンくんに差し出す。



ラララ

「ではこちらはいかがでしょう。この飴は漢方とドラゴンの涙を中心に調合したものです。白を飲めばお客さまが消えてほしいものが徐々に形を変えて消滅します。漢方入りなのでぐっすり眠れますヨ」


レオン

「ええ、除霊ではあまり意味が無いと言いますか…まぁともかく、さっさと逝って欲しいんですよ。とはいえ、本当に消えるんですか?そんな都合の良い商品が……いえ、怪しいとわかりつつも尋ねたのは私ですけどね。ダメ元だったもので」


受け取った小瓶の中身を物珍しげに眺めながら、レオンは自身の求めたアイテムに近いものが出てきたことに少々驚きつつも確認を行う。


ラララ

「おやおや。よほど厄介な悪霊に憑かれているのですネ」

「ものは試しって言うじゃないですかあ。ほらほら、買うなら今の内ですヨ。…ア。そうだ。お客サンの場合一緒に入ってる黒い飴は使用しないでくださいネ」


レオン

「はぁ、黒ですか。特に使用予定はありませんが、一応理由を聞いても?原材料によっては取り扱いを間違えて、それこそ大惨事を引き起こす可能性がありますからね。それと、値段の確認も。これほどで足りますか?」


こんな闇市で見知らぬ商人に頼ろうとしている者が言えた口ではないだろうが、レオンは警察である。警察がそれこそ他者に迷惑をかけたり巻き込んだりするようであれば、秩序の番人として示しがつかない。


ラララ

「黒は白い飴とは逆で思い出したいものが徐々に形を取り戻す効果がありまス。今のお客サンには必要の無い代物でしょうが、マアお近付きの印という事でサービスです♡」

「…わお…お客サン本当にお金持ちなんですねエ。世で言う勝ち組というお方が大金を使ってまで何故そんな顔でこんな所に来て初対面が勧める薬に頼ろうとしているのかわたくしにはこれっぽっちも理解出来ませんが、それはそれとしてありがたくいただきますヨ!」


ラララは消息を絶ったかつて天才科学者と呼ばれたロルフッテを探す為に商人となりあらゆる手を使いながら世界中を飛び回っている。

今回異世界であるエデン大陸へ訪れたのもその理由だった。彼とは未だに出会いを果たしていないのだ。新しい世界を巡るには当然大金が必要なのでしっかり受け取る。


レオン

「おや、随分と都合の良い飴セット。もはやここまで来ると、胡散臭さも一周まわって気にならなくなってきましたよ。まぁ良いでしょう。今更惜しむ命でもありませんし」


レオンは手の中の小さな小瓶を、カラカラと鳴らした。


レオン

「そうですね、失って困るものは特にありませんので。例えばこの飴に毒が入っていたとしても…それは全ての人間にとって喜ぶべき結末となります。もしも貴方が嘘つきでは無かったとしても、同じ結末が訪れる。幾ら財産があろうとも、公平の下で”勝利”を金では買えないのです」


ラララ

「まあ人間すぐにネジがぶっ飛んだモンを欲しがるし作りたがりますので」


僅かに人間に対し毒を吐きながらくつくつと笑う。

闇市場なのもあって容姿もそこまで気にする必要は無いと思っているし見た目の派手さでお客を呼び寄せられるなら一石二鳥の考えである。


ラララ

「ふふ、随分と自信が無いのですネ?世間でいう公平を守る警察サンとは思えない発言ダ。わたくしはその方が好みですけど」


ふ、と夜闇に溶け込みながら微笑めばひらひらと蝶々も舞う。


ラララ

「さあさ交渉は成立しました。今日はもうお開きでございますヨ。夜道にお気をつけてお帰りくださいナ」


レオン

「ええ、その辺りは私も同感です。どんなに文明が発展しようとも、行き着く先は破滅。愚かですよ、本当に」


文明とは、人間の努力の結晶であるが、同時に人間を滅亡させる武器となりうるのも文明である。人間は、自身の滅亡のために日々努力を重ねているのだと思うと、笑わずにいられるだろうか?


レオン

「おや、金を巻上げた客は用無し…というわけですか。ええ、合理的な接客は嫌いじゃないですよ。貴方の店のレビューがあれば星1で送るくらいにはね」


相変わらず張り付いた笑みを浮かべて、レオンは踵を返した。

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